Photo by Shun Kondo

 もしも、手術前に自分の臓器で医師がリハーサルをしてくれたら──。

 竹田正俊率いるクロスエフェクトが開発した「心臓シミュレーター」を使えば、その夢が実現するかもしれない。

「正確に再現された私の心臓です。重さも私の心臓とほぼ同じ400グラムです」

 竹田が自信を持って差し出した赤褐色の“心臓”は特殊なウレタン製で、こぶしよりも二回りほど大きい。手に取ると柔らかく、ひんやりとしている。内部は四つの小部屋に分かれ、弁も付いている。表面の太い血管の中も空洞だ。

「心臓の内側まで再現したモデルは世界初です。メスでの切断や、縫合もできます」

 豚の心臓を解剖して高めたという質感などの再現度もさることながら、驚くべきはその製作スピードだ。心臓の3Dモデルは、オーダーメードでも約5日間で製作できると竹田は語る。

 実際の製作の流れはこうだ。患者のCTスキャンのデータを、専用のソフトウエアで工業製品用のCADデータに変換。医師の確認を得た上で、光造形でプラスチック製のひな型を作る。

 光造形とは、紫外線を照射すると固まる特殊なプラスチックを0.1ミリメートルずつ積み重ねて立体的な模型を作る手法で、クロスエフェクトのおはこだ。こうしてできたひな型を基に外型と中子を作り、ウレタンを流し込んで心臓モデルが完成する。費用は一つ50万~100万円だ。

 患者本人のCTスキャンデータから作られるため、腫瘍や内壁の穴などの心臓の異常も再現される。医師の手術前のリハーサルにはぴったりというわけだ。

 ある外科医に見せたところ、「学校の試験と同じだ。前日に問題が手に入れば、当日は100点満点が取れるし、時間もかからない」と絶賛されたという。