Photo by Masateru Akiyama
「自分が心から欲しいと思える楽器を作りたかった」──。4歳から始めたというピアノの鍵盤をたたく手を止め、ヤマハ 楽器・音響事業本部技術開発部バリューデザイングループリーダーの小関信也は、そう四半世紀前に思いをはせた。
1993年秋、全世界でピアノの常識を一変させたヤマハの画期的商品「サイレントピアノ」。世界初のヘッドフォンを使った“消音”機能を搭載したアコースティックピアノである。
92年に立ち上がったその開発チームに、最年少の27歳で抜てきされたのが小関だった。
「プレッシャーはありましたが、苦ではなかった。やっぱりピアノが好きだからですよね」(小関)
開発チームの発足から約半年後、新たなメンバーが加わる。現在はヤマハ 楽器開発統括部ピアノ開発部ピアノ開発グループリーダーを務める、浦智行だ。
浦は大学卒業後、家電メーカーにエンジニアとして入社したものの、3年後に「楽器を作りたいという夢を諦め切れず」にヤマハに中途入社。28歳だった92年当時は、自動演奏の電子センサー開発に携わっていた。だが、既成概念を根底から覆すアコースティックピアノの開発が始まったと知り、上司に異動を直談判したという。
「ヤマハには昔から、やりたい人にやらせるという社風があったから……」と浦は苦笑いする。
開発チームの当初メンバー5人のうち、3人が定年退職を迎え、現在もヤマハに残るのは、この最年少コンビだけになった。