岩井 大・森永乳業 食品総合研究所 第3開発部部長
Photo by Masato Kato

 朝鏡の前に立つとまた新しい吹き出物を発見した。森永乳業の研究開発員である岩井大は三十路になった2003年、思春期男子のように吹き出物が絶えなくなった。

 原因は明々白々。チョコレートの過剰摂取である。岩井はこの年、新しいチョコレートアイスクリームバーの開発担当者に抜てきされていた。

 開発の目標は自社の看板商品である一口タイプのチョココーティングアイス「ピノ」、バニラ味を代表格としたアイス「MOW(モウ)」に続く、シンプルでおいしい大人向けの本格的なアイスバーである。

 ピノのように年間売上高100億円を超える「メガブランド」のアイスは業界でほんの数ブランド。圧倒的なナンバーワンブランド不在のチョコアイスバーのカテゴリーで、メガブランドを生み出して市場を席巻したかった。

 新商品の原料を探究するためにビター、ミルク、ホワイトそれぞれ何十種類ものチョコを食べ続けたのである。

味覚は訓練で鍛えられる
吹き出物は開発者の勲章

 森永乳業には「風味パネルマイスター」という独自の認定資格がある。これは人間の舌が感じる五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)を判断する社内試験を通じて、味覚のプロフェッショナルを育てるもの。岩井は試験を通じて味覚が訓練で鍛えられることを実感していた。