「離婚と解雇の共通点」を語る、『損する結婚 儲かる離婚』の藤沢数希さんと『社長は労働法をこう使え!』の向井蘭さん。

そのタイトルだと女性は尻込みするのではないかと聞かれた藤沢さんは、「女性こそ結婚の法律をまったく知らない」と指摘して……。「美人と結婚すれば、離婚でもめない」などの説も飛び出す第2回です。 (構成:平松梨沙)

読むと結婚したくなくなる?

向井 それにしても、『損する結婚 儲かる離婚』って本当にインパクトのあるタイトルですよね。読んだ方からの反応はいかがですか?

藤沢 「この本を読むと結婚したくなくなる」という男性からの声はありますね(笑)。本の中では「事実婚」という選択肢についても出していますし。ただ僕は、それでも法的な結婚をするメリットはあると思っています。

向井 そうなんですね。その心は?

藤沢 やはり「結婚してくれ」と言う女性は多いですから。そういう女性に「うちは事実婚だよ」と言っても納得しないでしょう。どうしても好きな女性がいて、彼女に「結婚してくれないと別れる」と言われればそれに応じざるをえない場合はある。やむにやまれずね。事実婚でいいという人を探せばいいんでしょうけど、なかなか難しい場合はある。しかし、その点でいうと、稼いでいる女性が法律婚をするのは本当にメリットないんですよ。「結婚してくれないなら、ぼくはもうこれ以上付き合うのは無理」とか言う男性はそうそういないですから(笑)。

向井 男は言いませんか?

藤沢 聞いたことあります?

向井 ないですね(笑)。

藤沢 結婚したい、結婚したい、と日がな一日つぶやいている女性は多いのですけど、そのわりに、彼女たちは結婚の法律について知らないんですよね。「お金持ちと結婚すれば財産の半分が自分のものになる」と勝手に思い込んでいるバカな女性もいるぐらいです。ふたりで分けるべき共有財産となるのは、あくまで結婚してから増えた財産であって、働いていないボンボンの金持ちと結婚しても、1円も自分のものにならないんですけどね……。

向井 たしかに……。僕の周りの女性は弁護士が多いので別ですけど、ふつうの人は結婚の法律について学ぶ機会がないんですよね。

女性がコンピ地獄に陥ることもある

藤沢 コンピのリスクを女性が負う場合もあるのに、困った話です。

――え、そうなんですか?

向井 その通りですね。男女は法の下に平等ですから。女性のほうが稼いでいれば、当然、婚姻費用も財産分与も、女性から男性に支払うものとなります。

藤沢 ぼくの周りにはけっこういたんですね。外資系の銀行で働いていたので、年収2000万円や3000万円稼いでいるキャリア女性がたくさんいたんです。彼女たちはバリバリ働いているんだけど、35歳くらいでさびしくなってきて、いよいよ真剣に結婚相手を探し始めます。

向井 そういう女性は周りに高所得男性が多いだろうから、同じくらいのレベルの男性と結婚するんじゃないんですか?

藤沢 そういうラッキーな人もいますが、高所得男性は別に年収で相手の女を選んでいないので、自ずと高所得な職場では女のほうが売れ残りますね。彼女たちは自分が忙しいから、こっちの予定に合わせていつでも会える、暇な癒し系の男性と結婚したりするんです。そういう男性は低所得ですよね。それで何年かして別れようとなると、大変なことになる。

向井 へえ。外資系金融で働いているような方はリテラシーが高そうに見えるんですが、そうでもないのですね。

藤沢 そうなんです。女の人ってどんなに年収があっても、独身の間は男性におごってもらえるんですよ。だから、「金持ちと結婚すると得をするだろう」というのは体感でわかっているんだけど、貧乏な人と結婚しても、単に得が少ないだけだと思ってるの。「底が抜ける」ということを全然知らないんです。

向井 ゼロどころか、思いっきりマイナスになるのを知らないと。

藤沢 そう。普段は仕事で無知な客に変な金融商品を嵌めているのに、結婚に無知で、自分がコンピ地獄に嵌められるというね(笑)。そういった金融商品としての結婚の側面は、女性も知っていて損をすることはありませんから、ぜひぼくの本を読んでいただきたいと思っていますね。

その「戻りたい」って本当?

向井 離婚と解雇の共通点の話に戻るんですけど……争った両当事者の信頼関係はどう見ても破綻している場合でも、建前上は「戻りたい」と言った側が得をするところも似ているなあ、と思いますね。

藤沢 そうそう、それなんですよ。これがすごく奇妙なロジックでね。本でも紹介しましたが、俳優の高嶋政伸さんの奥さんであった美元(みをん)さんとか、典型的なんですけど。政伸さんを極悪非道の有責配偶者としてののしりながら、「あちらが有責配偶者なのだからあちらからの離婚請求はできない」「私は夫婦に戻りたい」と言って、月45万円のコンピをもらいつづけた。もちろん、美元さんは当然の権利を行使しただけで、それが悪いとは言いません。結婚と離婚の法律というか、実務での運用上そうなっているだけであってね。

向井 解雇裁判でもね、労働者の方はみなさん「戻りたい」と言うわけですよ。でも実際に解雇無効を勝ち取ると、先程の事例のように給料だけ払わせて会社に来ないなんて人もいる。離婚も解雇も、訴訟となれば、白黒つけることになるんだけど、夫婦関係とか雇用関係って、本当はそういうふうに割り切れないですよね。信頼関係がないと成り立たないもので、しかも訴訟をつづけるうちにどんどん崩壊していく。

藤沢 本当に「戻りたい」と思っている人なんて、1人もいませんよね。

向井 「1人も」とまでは言わないですよ(笑)。ただ、法廷で発される「戻りたい」を言葉どおりにはとらえられないと思いますよね。ぼくが現在かかわっているのは労働関係の訴訟ばかりですけれど、司法修習のときに離婚調停に接したときはびっくりしましたよ。私は当時は27歳くらいでしたので、まだ結婚に夢を持っていたというか(笑)、中には離婚調停の場でも「夫に戻ってきて欲しい」なんていう奥さんもいるんじゃないかと思っていましたが、結局のところ、一つの例外もなく、皆さん「お金」「子供」の要求しかしていなかったですね。これには驚きました。

――「関係を修復したい」という人はほとんどいないと?

藤沢 それはそうなりますよ。裁判なんて、どれだけカネをとるか・どれだけカネを守るかの世界だから。でも、建て前があるから、それは直接言わない。権利だとか、なんか難しい言葉で表現される。で、まあ、それはそうなんですが、ちょっと注意したいのは、弁護士であっても、離婚訴訟の経験を積んでいる人じゃないと、実務はわかっていないことがありますね。六法全書読んでも、コンピ地獄の仕組みはわかりませんから(笑)。

裁判は、一度始まったら戻れない「戦争」である

向井 そういう実感がありますか。

藤沢 ええ。弁護士の方が書いた本もいろいろ読んだんですけど、ある本を読んでいたら、まあ、なんというか、弁護士の著者が、うちに相談に来た変なクライアントについて書いてある、ちょっと客をバカにするのはどうかな、という本なんですが、そこで、旦那さんと別居して婚姻費用を毎月50万円もらってる奥さんについて紹介されてたんです。

向井 お、高額所得者の夫を持つ妻、ということですね。

藤沢 はい。どういう話かというと、その奥さんが夫の悪口をさんざんまくしたててくるので、著者の弁護士は、「浮気の証拠がこれだけあるなら簡単に離婚が認められるので、すぐ別れられますよ」と言って、裁判やりましょう、と言うんです。でも、「いや、私は毎月の婚姻費用の金額を増やしたいだけです。その方法を教えてください」と返されてしまって、変なクランアントだな、と綴ってるんですけど、たぶん、彼はDVとかの本物のダメ亭主から逃げてきた奥さんたちをいかに離婚させてあげるか、みたいな仕事しかしたことなかったと思うんですよ。だからね、相談に来た奥さんのほうがよっぽど、この結婚という金融商品の扱い方がわかってるんですけどね。離婚問題ってね、そういう一文無しのDV亭主と別れさせてあげる、まあ、そういうボランティア的な仕事とね、こういうまとまったコンピが出る離婚劇って、まったく別のゲームなんですよね。

向井 そうですね(笑)。あと、まあ、日本人は、お金について話すのが嫌いなんですよね。それ自体が汚らわしいと思ってるのかもしれない。

藤沢 あと、ぼくの本を読んだ奥さんとかにはちょっとひとつ言っておかないといけないことがありましてね。婚姻費用とかの仕組みを知ると、それを使いたくなる人はいるかもしれませんが、気楽に試すのはオススメできない。一度ボタンを押したら、もう全面戦争が始まっちゃうから。ちょっとした夫婦喧嘩と違って、ボタン押しちゃうと、二度と昔に戻れませんからね(笑)。

向井 労働問題も全く同じです。

藤沢 そうですよね。過去の未払い残業代請求とか、法的にはできるんですけど、いま務めている会社で、それ請求しながら、またみんなと仲良く働くのは難しいですよね(笑)。

向井 法的には正しくとも人間関係が壊れますからね。

藤沢 まあ、だからね、コンピ地獄に陥らない方法なんですがね、普段から旦那が算定表に載っている婚姻費用以上のお金をちゃんと奥さんに渡していれば、わざわざコンピを裁判所を通して請求するインセンティブはなくなるんですよ(笑)。それと同じで企業も、労働者が文句を言わないような賃金と残業代をちゃんと払っていれば、トラブルは起きにくい。だから、ケチると結局、高くつくよ、と。

向井 そういえば藤沢さんは、以前、ツイッターで「美人の奥さんは、離婚でも、綺麗に別れられる」という話を書かれていましたよね。

藤沢 ああ、書きましたね。あれは知り合いの弁護士が言っていた話なんですけど、奥さんが美人のほうが、まあ、再婚市場ですぐに次の相手が見つかるから、泥沼にならずに、綺麗にスパッと離婚できるらしいですね。

向井 解雇の局面でも同様のことが言えるかもしれませんね。労働問題の場合は容貌の話ではなく、能力の話ですが……転職市場で需要がある人というのは、会社に対して訴訟を起こさない可能性が高いですね。転職市場で苦しい立場にあると自分で自覚している人が起こすことが多いような気がします。

藤沢 やっぱりそれを考えると、他者からも人気のある人を雇ったほうがいいんですよね。結婚も美人とした方がいい(笑)。

向井 あと、結婚の場合は「婚前契約」を交わすというオプションもありますね。弁護士で、タレント活動も行っている大渕愛子さんが俳優の金山一彦さんと結婚した際には、婚前契約をかわしたと報道されていました。

藤沢 欧米諸国では一般的ですからね。ただ、日本の一般の男女だと、結婚する前に、離婚前提の話をするのはハードルが高いでしょうね。日本はまだ判例がほとんどなくて、婚前契約がどの程度有効なのかはっきりしないところもありますしね。

向井 そうですね。そのリスクはありますね。

――欧米では「事実婚」も多いんでしたよね。

藤沢 そうなんですよ。まあ、欧米先進国は概ね5割ぐらいですね。過半数の子供が、法的には結婚していないカップルから生まれてくる。ああ、やっぱり欧米は日本とちがって自由なんだな、と思ったんだけど、今回の本を書くなかでいろいろ調べたら、むしろ逆で、ヨーロッパの国なんか、日本よりもむしろ結婚の縛りが厳しいんですよ。場合によっては、離婚したあとも配偶者の面倒をみないといけなかったりする。だから、逆に厳しすぎて、多くの人が馬鹿らしくて、かえって事実婚に一気に行った、という面があるんです。

向井 なるほど。

藤沢 まあ、日本も、結婚の金融商品としての知識が広まったうえで、みんながリスクとリターンを理解して、それに応じた選択ができる社会になればいいと思っています。事実婚を含めて。

※この対談は全3回の連載です。 【第1回】 【第2回】 【第3回】