同様の事例は、人口1万5000人の田舎町に、「幽霊麻酔士」が出没するというパニックから、ハイウェイの料金所の従業員の体調不良までさまざまなところで発生しています。共通するのはつながりの濃い孤立したコミュニティであることと、メンバーのストレスが高いことです。

『幸福の「資本」論』
橘玲著
ダイヤモンド社 定価1500円(税別)

 病気にかかるのは多くが女性ですが、サッカー場から戦場まで男性が暴力的な感情を集団で暴走させる事例も多々あります。骨の髄まで社会的な動物であるヒトのネットワークは、ちょっとしたきっかけで感情を「伝染」させるのです。

「感情の伝染」は、町の健康度調査でも見つかっています。煙草を吸わない健康なひとの幸福度は高く、不健康な喫煙者の幸福度は低いのですが、幸福なひとは幸福な隣人と、不幸なひとは不幸な隣人とつき合う傾向があり、ネットワークの本線にいるほど幸福度が高いことがわかっています。ヒステリーと同様に、幸福や不幸も「伝染」するのです。

 この不思議な現象は、私たちが自分に似たひとのようになりたいと思い、自分に似たひとたちを真似しようとすることから説明できます。ヒトの脳は、無意識のうちに周囲のひとびとの感情を真似し、吸収するようにできています。意識のうえでは他人とちがうことをしたいと思っていても、無意識のレベルでは群衆に合わせているのです。

 幸福度の調査では、自宅から1.6キロ(1マイル)の範囲に住む友人が幸福になると、あなたが幸福を感じる率が25%上昇します。より感情的に強くつながっている家族では幸福の伝染効果はさらに高くなり、とりわけ娘から親への感情の伝播が顕著です。──女の子の方が親にこころの内を明かすからだとされます。

「幸福の伝染」効果はきわめて大きいので、行動科学の研究者であるポール・ドーランは、「どうすれば幸せになれるか」「もっとセックスできるか」「体重を減らせるか」と質問されたとき、(半分ジョークで)次のように答えるといいます。