作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回は「幸福な生き方のポートフォリオ」について考える。

アメリカに台頭する新上流階級「BOBOS(ボボズ)」

 アル・ゴア米副大統領の首席スピーチライターから作家に転じたダニエル・ピンクは、『フリーエージェント社会の到来』(ダイヤモンド社)で、組織に所属する生き方からより自由な働き方に変わっていく未来を予言しました。

 国民年金や国民健康保険のないアメリカでは独立は大きなハンディを負うことになりますが、それにもかかわらず「インディペンデント・プロフェッショナル」と呼ばれるフリーエージェントが急増しており、法人成りした企業家も含めればその総数は推計3300万人にもなります。フリーエージェントはコンピュータ・プログラマーやコンサルタントなど、さまざまな分野で活躍していて、その収入は会社員より平均で15%多く、年収7万5000ドル以上の人が占める割合は給与所得者の倍に達します。

 ジャーナリストのディビッド・ブルックスは、アメリカに台頭する新上流階級を「BOBOS(ボボズ)」と名づけました。ブルジョア(Bourgeois)とボヘミアン(Bohemians)を組み合わせた造語で、典型的なBOBOSは夫婦とも高学歴で、リベラルな都市かその郊外に住み、経済的に恵まれているもののブルジョアのような華美な暮らしを軽蔑し、かといってヒッピーのように体制に反抗するわけでもなく、最先端のハイテク技術に囲まれながら自然で素朴なものに最高の価値を見出します(『アメリカ新上流階級ボボズ』光文社)。

 BOBOSの多くは弁護士やコンサルタントなどの専門家か、独立したプロジェクトを任された会社内のクリエイティブクラスで、自分たちをスペシャリストよりもクリエイターだと考えています。彼らの憧れは有名企業の社長や富豪ではなく、詩人や小説家、テレビキャスターといった「知的有名人」すなわち本物のクリエイターです。

 BOBOSたちはすでにじゅうぶんなお金を持っているので資産の額にはあまり関心がありません。高級ブランドではなくユニクロの服を着て、銀座の料亭ではなく近所のビストロで家族でのんびり食事をするのを好むようなひとたちでもあります。そんな彼らがこころの底から手に入れたいと願っている希少な宝石──彼らにとって真に価値あるもの──は、知的コミュニティのなかでの評判です。

 フリーエージェントは知識社会に最適化した生き方で、「好きなこと」に人的資本のすべてを投資し、官僚化した組織では生み出せないコンテンツやテクノロジー、スキルや知識を独占します。インターネットを通じて顧客と直接つながることができるようになった彼らは組織に従属する必要がなくなり、人間関係を選択することで自由な人生を楽しむのです。

 いまだ間人主義の政治空間が社会を支配している日本ではサラリーマンとはちがう人生を想像することは難しいかもしれませんが、グローバルな知識社会ではソロ充やニューリッチ(BOBOS)が台頭し、自由と自己実現を最優先する個人主義的でリベラルなライフスタイルが当たり前になってきているのです。