2017年12月に沖縄県内で起きた交通事故で、「米兵が日本人を救出した」とする報道をめぐって、産経新聞は「事実関係の確認が不十分」だったとして記事を削除。沖縄タイムスと琉球新報に謝罪した(18年2月8日付紙面に「おわびと削除」を掲載)。
沖縄タイムス記者・阿部岳は、自著『ルポ沖縄 国家の暴力』(朝日新聞出版)のなかでデマを垂れ流すメディアのあり方を問うている。いまだ沖縄2紙に向けられる“根拠なき批判”。その当事者でもある阿部が、今回の騒動をリポートする。
真っすぐな視線を向けられ、答えに窮した。取材相手の女性(19)がふいに聞いてきた。「米軍が良いことをした時には何で書かないんですか」。良いことをしたのかどうか、そこが分からないからです。出かかった言葉はしかし、のみ込むしかなかった。
昨年12月、沖縄県の高速道路で起きた多重事故。米兵が自らを犠牲にして日本人を救った、その英雄的行為を「反米」の沖縄タイムスと琉球新報の2紙は黙殺した――というデマがものすごい勢いで広がっていた。
産経新聞ウェブ版の記事が起爆剤になった。「米軍の善行には知らぬ存ぜぬ」「メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ」。激しい言葉がネットの波に乗った。
沖縄タイムスの同僚は早い段階で、記事を書いた産経の高木桂一・那覇支局長(当時)が県警に取材していなかった事実を把握していた。事故は警察。火事は消防。新聞記者なら、1年生でもまずは聞く。電話をたった一本かけるだけで、米兵による日本人救助は確認できない、という事実が分かった。新聞社として、およそ考えられない欠陥取材。沖縄2紙を批判するために、あえて事実関係を無視したのではないか、とさえ私たちは疑った。