トランプと金正恩の歴史的会談は、シンガポールで6月12日に開催されることが決まった。日本人は、「トランプは、金にだまされるのではないか?」と恐れている。その懸念はもっともだが、嘘に関していえば、米国の嘘はもっと頻繁で、もっと巨大である。世界一の経済、軍事大国であるだけに、嘘の悪影響も計り知れない。(国際関係アナリスト 北野幸伯)

カダフィは無残に殺された
「リビア方式」の真実

北朝鮮のみならず、米国の「嘘つき癖」も国際社会を混乱させてきました。
米国の言う事を聞いて核開発計画を放棄したのに、無惨にも殺されたリビアのカダフィ大佐のようになることを、金正恩は恐れている Photo:Reuters/AFLO

 北朝鮮は、1994年の米朝合意時には「核開発の凍結」を、2005年の6ヵ国共同宣言では、「全ての核兵器破棄」を約束した。しかし、現状を見れば、北朝鮮が「嘘をつき続けてきた」ことは明白だ。

 だが米国も、北朝鮮も真っ青の嘘つき癖を持っていることを、われわれは知っておく必要がある。

 時事ネタがらみの話から始めよう。米国政府は、北朝鮮問題を「リビア方式」で解決することを検討している。CNN5月1日付を見てみよう(太線筆者、以下同じ)。

<北朝鮮の非核化へ「リビア方式」検討、専門家は危険を指摘
CNN.co.jp 5/1(火) 11:16配信 
(CNN) 米政府は北朝鮮の非核化に向けた交渉について、「リビア方式」で対応に当たることを検討している。
 ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が4月29日に明らかにした。>

「リビア方式」とは2000年代初め、リビアが制裁解除と引き換えに核開発計画を放棄することに合意したことを指す。

 少し補足をしよう。
 03年は、イラク戦争が始まった年として知られている。同年12月、リビアのカダフィ大佐は「核兵器を開発していた」事実を認め、「無条件の破棄」を宣言した。結果、欧米諸国との関係が大いに改善された06年には、「テロ支援国家」指定が解除されている。

 ここまで読めば、「リビア方式は素晴らしい!」と思うだろう。リビアは核兵器開発を止め、カダフィは生き残った。これを北朝鮮に適用すれば「北は核兵器を廃棄し、金正恩は北朝鮮を統治し続ける」となる。

 日本、米国、韓国は、核の脅威から解放され、金は「米国から攻撃され、すべてを失う恐怖」から自由になる。まさに「WIN-WIN」だ。

 ところが、この話には続きがある。

<それから数年のうちに、カダフィ政権は崩壊し、米政府が支援する反体制派によってカダフィ大佐は殺害された。>(同上)