要約者レビュー
海外へ行くと、自分が慣れ親しんだものとは異なる風景や価値観がかくも人の心を動かすものかと驚くことがある。現地の人にとっては当たり前の日常でも、それは自分にとっての非日常である。たとえ小さな違いだったとしても、興味深くまた物珍しく感じられることがある。
山田拓、 208ページ、新潮社、740円(税別)
著者が飛騨古川で手がけるツアー事業、「SATOYAMA EXPERIENCE」(里山エクスペリエンス)におけるサイクリングツアーでも同様のことが起こっている。歴史的建造物でも世界遺産でもない飛騨の里山のごく普通の風景は、外国人観光客にとっては非日常なのである。水田を初めて目にする人にとって、それは興味を引く対象になりえるだろう。初めて見る人にとっては、アマガエルでさえ、思わず写真を撮ってしまう「人気キャラ」になりえるのだ。
里山の景色に価値を見出す着眼点と、小学生の通学風景でさえも外国人観光客に喜ばれるだろうというひらめきは、525日もの間、世界を旅してきた著者だからこそのものと言えるだろう。
本書『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』には、著者が飛騨古川の地で取り組んでいる里山サイクリングツアーの立ち上げについて、その全貌が書かれている。コンサルタント経験のある著者だが、企業のやり方が地方では機能しないこともあったと、その苦労の数々についても明かされている。
地域課題の解決を目指す方にとっては、どのような点で苦労するのか、また事業をいかに継続させ、収益化を図るのかという点で大いに参考になるだろう。インバウンドを狙う地方においては、救世主となる一冊かもしれない。 (立花 彩)
本書の要点
(1)地方では、仕事の進め方や意思決定の基準が都会とは異なる。コミュニティが小さいだけに、人間関係が重要なファクターとなる。
(2) 地元の人にとっては見慣れた日常風景であっても、外国人観光客や都市生活者は非日常であるため、観光資源となりえる。
(3) 著者が目指すツーリズムとは、「ゲストのhappy」「地元企業のhappy」「ひだびとのhappy」「ワカモノのhappy」の4つのhappyを実現するものだ。事業と「飛騨の暮らし」は密接に結びついているので、 特に地元企業とひだびとのhappy」に注力している。