農村の古民家に観光客を呼び込もうという「農泊」。しかし、きれいな農村風景や味わいのある古民家さえあればうまく行く、というほど単純なものではない。観光客が増加している「農泊」の事例からは、意外な成功へのカギが見えた。
農村の古民家に
外国人観光客を呼び込む
山あいの古民家で囲炉裏を囲む。いまや日本人にとっても新鮮な体験だ。ましてや、外国人の目に魅力的に映るのはいうまでもない。東京のにぎわいや京都の古寺名刹の趣を一通り見聞した人が、さらに深く日本を知りたいと考えた場合に、伝統的な庶民の暮らしを体感できる格好のサンプルとなるからだ。
訪日外国人旅行者は2013年に1000万人を超えてから年々の増加幅が目立つようになって16年には2404万人となっており、政府は観光立国の実現のために20年にはこれを4000万人にまで増やすという目標を掲げている。
そのようにして近年目立つようになったインバウンド観光客の6割が、東京から箱根や富士山を経て京都・大阪に至る「ゴールデンルート」に集中している。大都市の宿泊施設が不足して民泊需要が降って湧いたところにヤミ民泊がはびこり、トラブルや風評被害を巻き起こすという事態も起きている。
そんな中、訪日旅行者を広く地方にも誘客するために政府が打ち出したのが「農泊」というスタイルだ。2017~20年度を対象期間に、農山漁村の体験型宿泊を全国500地域でビジネスとして展開し、年間訪日客4000万人の目標達成につなげようとしているのだ。
そして民間からも、18年2月に「日本ファームステイ協会」が、民泊プラットフォーム事業者である株式会社百戦錬磨の上山康博社長を代表理事として発足し、農泊を盛り上げようという機運も高まってきた。
古民家といえば聞こえはいいが、老朽化して後継者もなく、空き家になって地域のお荷物になっている例も少なくない。それを逆転の発想で観光資源として掘り起こせれば、農林漁村の所得向上にもつながり、地方再生の成功モデルともなりうる。
しかし、お金を払って泊まってもらう以上、インフラの整備やプロフェッショナルな接客は不可欠だし、外国人を受け入れるのなら、言葉や文化習慣の違いの問題も出てくる。営利事業として成功させるためにはさまざまな困難があるのだ。そこで今回、前述の百戦錬磨の上山社長や、長野県の「信州いいやま観光局」に取材をし、農泊をめぐる現状や課題について話を聞くことにした。