一方で、ホンハイは高品質な製品を圧倒的な低コストで製造するノウハウに長けている。ホンハイ傘下のフォックスコンがあのiPhoneの生産を引き受けていることからも、それはわかるはずだ。もともと製品品質の高さがウリだったシャープの大画面テレビを、ブランド価値を今まで以上に上げつつも、工場の生産性をホンハイ流で引き上げ、低コストで生産できる体制に変える――。こういうやり方だから、黒字になるわけである。

 そして戴社長は、東芝のPC事業も同じロジックで再生できると考えているようだ。東芝のダイナブックは、法人市場で根強いコアユーザーを保持している。そのコアユーザーの期待に応えるだけの頑丈性や軽量性といった製品価値も強みになっている。

 そのブランド価値、製品価値、顧客資産をそのままに、工場の生産性を中心にホンハイ流の経営管理、いやシャープ流の経営管理を導入すれば、売上高1470億円、営業赤字84億円の東芝PC事業を黒字化するのは決して遠い道のりではないだろう。

シャープが実は見据える
PC事業買収の「その先」

 興味深いことに、シャープは「その先」も視野に入れているようだ。戴社長は大きな買収理由の1つに、400人のIT技術者が獲得できることを挙げている。そして今回の買収での黒字化の先には、もう1つ新しい将来の展開を見据えているというのだ。

 それがIoTや人工知能の部隊を強化することである。シャープに限らず、世界の製造業はこれから先の数年間で、IoTと人工知能によって新しいビジネスの局面を迎えることになる。にもかかわらず、赤字に苦しむ企業や先行き不透明な企業には、こうした時期の人材投資にそれほど前向きにはなれないという実情がある。

 そこを気にせずに人材獲得に舵を切れるのが中国、台湾の成長企業の強みだと筆者は思う。その観点で言えば、そもそもシャープがホンハイ傘下に入ったことは、日本経済にとっても非常によかったことなのではないか。

 東芝のPC買収は、日本勢が厳しい製造業の競争で勝ち上がるための新しいロールモデルなのかもしれない。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)