経済界からは、これを機に経済政策を市場重視型に変えるべきとの声が上がっていたが、洪副首相は大統領の国政哲学をよく理解している、金室長は文政権の国政課題設計を主導した人物だと説明、文大統領は従来の政策を維持するとした。これに対し『中央日報』は、「理念に偏って公正経済を推し進めれば、むしろ革新を妨げ経済活力を落とすことになりかねない」と指摘している。

徴用工に対する大法院の判決には
多数のメディアから強い懸念の声

 では、戦時中に朝鮮半島から働きにきた韓国のいわゆる“元徴用工”に対し、韓国の最高裁に当たる大法院が10月30日に、新日鉄住金に賠償を命じる判決を確定させた問題についても見ていこう。

『中央日報』は、『朝日新聞』『東京新聞』といった韓国に対して友好的な論調だった新聞の1面の解説記事を引用しつつ、「国民情緒法」「積弊清算」といった韓国国内の“政治ゲーム”に徴用工が巻き込まれたとして、「日本メディア、『韓国疲れ」主張しながら非難一色」と報じている。

 さらに『読売新聞』の「徴用工問題に突きつけられた確定判決は、日韓間で長く共有してきた従来の見解や立場を踏まえず、韓国独自の一方的な歴史観が反映されるものとなっている」との報道も紹介している。こうした韓国の歴史観に対する日本の批判が韓国で紹介されるのは極めて珍しいことだ。

 徴用工判決については、『文化日報』や『京郷新聞』といった日本に対して批判的な記事を書くことが多いメディアも、「この判決は国際法に違反する可能性が高い」「植民地支配の違法性問題は、韓国であれ日本であれ一方の憲法ではなく、その当時の国際法に基づいて判断しなければならない」「国際法上韓国にとって有利ではない」などと批判、日本の韓国離れが進むとの懸念を示している。

『朝鮮日報』は、「文在寅政権よ 非難ばかりしていないで自分でやってみろ」と題したコラムを掲載。その中で、朴槿恵前政権の慰安婦合意に関連し、「もはや交渉を求めないというが、合意を破棄すれば新たな条件を手に日本と衝突しなくてはならない。廃棄ばかり宣言して、何もしなければ再び違憲状態になる」「53年前の請求権協定に署名したいわゆる『積弊』が、時代と国力の中でどれだけ辛酸をなめ、実を結ばせたのか、その一部でもいいから同じ扱いをしてみよ。非難ばかりするのではなく、自分でやるのだ」と論評している。

 徴用工問題で文大統領は、「個人請求権は消滅していない」と行政府の長として初めて発言。しかも自分の考えに近い、大法院の判事でもない元地方裁判所の所長を大法院の長官に抜てきし、判決を事実上主導しながら、判決後は「司法の判断を尊重する」「対応は国務総理に一任する」などと逃げ回った。『朝鮮日報』のコラムは、こうした大統領の無責任さ表したものであろう。

 このようなやり方で、日韓関係が改善するはずがない。日本にとって韓国と安定した関係を築いていくことは困難ではないか。私は、日韓関係改善を文大統領退陣の日まで待たなくて済むことを望む。理念に埋没し、国家の利益を見誤る。文政権の韓国の行方が心配である。

(元・在韓国特命全権大使 武藤正敏)