「保護の喪失」を恐れる人々
「福祉国家」に代わる枠組み作れず
ナショナリズムの台頭については各国ごとに状況が異なるが、概していえるのは、90年代以降のEUが、共通通貨ユーロの導入と市場の拡大による競争力の向上を最優先して統合を推進してきた結果、十分に文化的に統合されないままEUの一員になってしまった人たちや、統合の恩恵を受けているとあまり感じられない人たちを大量に生み出してしまったことだ。
そうした人たちが、欧州委員会を中核とするEUの官僚機構に根強い不信感を抱くようになり、陰謀論的なストーリーが流布しやすい雰囲気が生まれている。
EUが共通通貨の導入に向けて本格的に動き出した時、フランスの社会学者ブルデューなどリベラル系の知識人は、金融面での統合だけ進んで、ヨーロッパ諸国が培ってきた福祉国家的枠組みが解体していくことに対する懸念を表明していた。
西欧の社会民主主義系の政党の多くは、中道右派系と協力して、国民国家的な枠組みに代わる、あるいはそれを補完する福祉の枠組みを整えることをしないまま、経済統合を推進した。
その結果、国民国家による保護の喪失を恐れる人たちを、ポピュリズム的なEU懐疑勢力に走らせることになり、欧州全体に政治的緊張を高めることになった。
マスコミや識者の間では、今回の議会選挙の結果について、EUが自分たちの生活にとって利益があると感じるようになっている若年層が危機感を抱き、ALDEなどの支持に回った。EUの空中分解という事態は当面回避され、従来の路線が維持されることになる、と楽観的に見る向きも少なくない。
だが「EU懐疑」の根底には、グローバリゼーションのもとで、国民国家的な枠組みをどうしていくのかという大きな課題があり、簡単に亀裂が埋まるものではない。日本にとっても他人事ではない問題だ。
(金沢大学法学類教授 仲正昌樹)



