国民投票から約2週間経ったイギリスが、現在もまだ揺れ続けている。EU離脱の旗手的存在であったボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、自身の所属する保守党の新党首選びが始まる直前に立候補を固辞し、一線から退くことを示唆した。さらに、イギリス独立党の党首として20年にわたり多くの離脱派に影響を与えてきたナイジェル・ファラージ氏が突然辞任。彼らに扇動された形で多くの有権者が離脱票を投じたが、相次ぐ辞任劇に、有権者は開いた口が塞がらない。2人が消えた後に残ったのは、社会の分断や外国人差別、他国における反EU機運の高まりなどであった。(取材・文/ジャーナリスト 仲野博文)

地域ごとに異なる離脱派の割合
連合王国崩壊の序章となるのか

 国民投票では全体としては離脱派が勝利したが、各地域に目を向けると、様相は少し異なる。スコットランドでは「残留」に投票した有権者が62%に達していた。北アイルランドも、55.8%が「残留に投票」。一方、ウェールズは52%で離脱派の勝利。ロンドンを除くイングランド全体では57%が「離脱」に投票したが、ロンドンのみで見ると「残留」に投票した有権者が約60%に達した。

 残留派が過半数を超えたスコットランドとアイルランドでは、イギリスからの独立を求める国民投票を行い、その後EUに再加盟すべきとの声が上がっている。とりわけ、宗派間対立とイギリスの介入によって南北を分断されているアイルランドでは、北アイルランドがイギリスから独立したのち、アイルランドと統合すべきだとの声が日増しに強まっている。

 北アイルランドのベルファスト在住ミュージシャンのクリス・マッコリーさんは、イギリスの有権者がEU離脱を選択した直後の町の様子について語ってくれた。

「とてもガッカリしています。昨日の時点では残留で間違いないだろうという空気が町には存在していたので、投票結果に憤慨する友人も少なくありません。北アイルランド出身者はイギリスとアイルランドの二重国籍を取得できるため、私はアイルランドのパスポートを取得するための申請に行くことを決めました。北アイルランドの治安が20年近くに渡って安定していたのは、EUからのサポートがあったからなんです。キャメロン首相の後継者は間違いなく状況を悪化させるでしょうから、将来がとても心配です」

 マッコリーさんはアイルランドのパスポート申請を行う予定があると語ったが、彼のような例は珍しくない。英テレグラフ紙によると、国民投票の結果が出た6月24日、北アイルランドではアイルランドのパスポート申請に関する問い合わせが急増したのだという。