「新型うつ」が大流行りだ。まるで新型インフルエンザみたいだ。あちこちの雑誌で特集を組んでいる。特に経済雑誌が特集しているところを見ると、これは病気の問題より経済問題の側面が強いのだろうか。
病気、それとも……
新型うつは、サボリじゃないのかと言われる。会社の診療室で、「軽い抑うつ症状がある。休養をすすめる」と産業医にさらさらと書いてもらったら、A君は上司に「うつです。休みます」と堂々と宣言する。
「お、お前、今、どういう時期だか分かっているのか」
上司は、脳の血管がぶちきれんばかりに怒鳴る。期末のセールス強化の週で、追い込みがかかっているのだ。今週、どれだけ成績を上げられるかで、部の業績、いや、会社の業績が違ってくるのだ。
「全社一丸となって、火の玉のセールスを展開しよう!」などと書いたポスターがあちこちに貼ってある。それが目に入らないのか。
ところがA君は、「仕方がないですね。産業医が休養しろというのに休養させなかったら、労働安全衛生法違反ですから」と、上司の怒りを意に解さない。「それでは」と軽く手を上げると、机の上を片付けた。
「お前、それはなんだ?」
上司が、A君が帰りに担いでいるリュックからはみ出している透明なパイプのようなものを見つけて、聞いた。
「ああ、これですか?」とA君はパイプのようなものを見て、「シュノーケルです。沖縄の海でのんびりとシュノーケリングを楽しんできます」と言い、オフイスから消えた。