将棋AI「HEROZ」驚異の成長を支えるビジネスモデルの意外な仕掛け同社技術者が開発した将棋AIの「Ponanza(ポナンザ)」は、17年に佐藤天彦名人(当時)との対局に勝利 Photo:JIJI

熾烈な生存競争の中で急成長している、国内のスタートアップ企業があります。将棋対戦アプリの中で屈指の人気を誇る「将棋ウォーズ」を運営する「HEROZ(ヒーローズ)」です。HEROZは2009年に設立し、18年にはマザーズ上場、翌19年には東証1部へ市場変更を果たしています。今回は、HEROZの事例をケースに「どんなビジネスモデルが成長を可能にするのか」について解説します。(早稲田大学商学学術院教授 井上達彦)

AI技術で人類を超えた
日本で唯一の企業

 HEROZは、日本で唯一、頭脳ゲームでAIが人類の知能を超える転換点(いわゆるシンギュラリティ)に到達した企業です。IBMの「DeepBlue」(チェス、1997年)、Googleの「AlphaGo」(囲碁、2016年)と並び、同社の「棋神Kishin」(将棋、2013年)は人工知能の発達の歴史に名を刻みました。

 この偉業のきっかけとなったのが将棋対戦アプリ、「将棋ウォーズ」です。このアプリは、共同代表の一人の林隆弘さんが、好きな将棋で得意なAI技術を生かそうという発想で2012年に開発・配信しました。レベルに合った同じ力量の対局相手をAIがランダムに紹介してくれたり、対局中にはAIに助けを求めることもできます。そして対局後には、AIが形勢判断や局面の最善手を解説してくれます。

2種類のマネタイズで
将棋対戦アプリの収益を安定化

 ユニークなのは、その課金方法です。課金方法は2つ。1つめは、毎月何度でも対局できる「対局数制限解除」課金(500円~)です。この月額課金モデルによって、繰り返し将棋を楽しむユーザーたちから継続して、安定的な収益を得ることができます。