多くのビジネスパーソンは、毎朝電車で通勤し、電車で帰宅する。その時、男性なら誰でも痴漢犯人に間違われるリスクを負っている。もし間違われたら、あなたはどう行動するべきか。よく「駅員室に行ったらオシマイだから逃げろ」などと言われるが、本当にそうなのだろうか。駅員に突き出された時、逃げることなどできるのだろうか。実際の痴漢冤罪事件を例に考えてみたい。(弁護士・萩原猛、協力:弁護士ドットコム

息子が痴漢で逮捕された!
突然痴漢犯人にされた大学生

 2011年早春の某日、筆者は訴状作成のために事務所でパソコンを叩いていた。午後8時過ぎ、事務所の電話が鳴った。この時間に事務所の電話が鳴る時は、たいてい緊急案件だ。

 予感は的中した。どぎまぎしたような年配の男性の声が飛び込んできた。

「今日、息子が痴漢で逮捕された――」

 電車通学をしている大学生の息子が、通学途中の電車内で痴漢をしたというのだ。容疑は強制わいせつ罪だという。

 できるだけ早く面会したほうが良いと考えた筆者は、すぐに事務所を出て留置場所の警察署へ車を走らせた。弁護士は、夜間でも休日でも警察留置場で警察官の立会なく容疑者と秘密に接見(面会)することができる。この秘密の接見の権利は、容疑者の日本国憲法上の基本的人権である。

 筆者は、早く事情を聞いて、早期に被害者と示談交渉し、告訴を取り消してもらわなければならないと考えた。強制わいせつ罪は、親告罪、つまり起訴するには被害者の告訴が必要な犯罪である。容疑者の弁護人になった場合、なるべく早くに被害者と示談交渉し、告訴を取り消してもらうことが主な弁護活動となる。「忙しくなるな」などと考えながら、警察署内の接見室で容疑者の青年を待った。

 警察官に促されて、接見室に入室した青年に対し、筆者は、アクリル板越しに、父親から依頼されて面会に来た弁護士である旨を伝えた。すると青年は、「痴漢は絶対にやっていません」と訴えてきた。