東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。『大人のための地学の教室』は、京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝えている。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されている本書。今回、著者である鎌田浩毅氏へのインタビューが実現した。本記事では、南海トラフ巨大地震、首都直下地震のメカニズムと時期の予測について聞いた。(取材・構成/小川晶子)
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どうやって地震を予測するのか
――「南海トラフ地震が起きる」というのは以前からよく耳にしますが、いつ起こるのか予測できるものなのでしょうか?
鎌田浩毅氏(以下、鎌田):南海トラフ巨大地震が予想されるのは2035年をピークとして、前後5年です。2030年代に起こると思ってください。
なぜそう言えるのかを理解するには、地震のメカニズムを知らなければなりません。まず、地震には「海溝型地震」と「直下型地震」があります。「海溝型地震」は、プレートの動きによるものです。
海溝、つまり海の深い溝のところは、プレートがぶつかって一方のプレートがもう一方のプレートの下に沈み込んでいます。沈み込む側のプレートは、引っ張られてたわみますが、ある程度のところで耐えきれなくなって跳ね返ったり、亀裂が入ったりと大きく動きます。
その動きが、プレートが引き起こす地震なんですね。2011年の東日本大震災は海溝型地震です。海の中でプレートがボンと跳ね返るから、海底が隆起して津波が起きます。
同じようなことが西日本で起きる可能性が高く、それが南海トラフ巨大地震です。
千年時計と百年時計
鎌田:海溝型地震は、これまでの歴史と調査からプレートが大きく動く時期を予測することができます。東日本大震災と同じような地震が前回起きたのは869年。貞観(じょうがん)地震といいます。
そこから日本列島で地震が増えていきました。9年後に関東地方南部で相模・武蔵地震、さらに9年後に仁和(にんな)地震という海の巨大地震。日本列島の大きな地震は東からはじまって首都圏に立ち寄り、それから西へ移動しているんです。
現代も、東日本大震災以降、地震が増えました。千年ぶりの大きな地震によって地盤が不安定になり、地震や噴火などが起きやすい大地変動の時代の時計の針が進み始めたんです。これを「千年時計」と呼んでいます。
――千年ぶりの大きな地震があったから、しばらくは地震が起こらないかと思ったら逆なんですね。
鎌田:そう、それはとんでもない勘違いです。千年時計とは別に百年ごとに動き出す百年時計もあります。それは南海トラフ巨大地震の周期で、この周期はけっこう規則正しいんです。
南海トラフ巨大地震は、だいたい百年に一回起こり、そのたびに大きな被害をもたらしています。これまでの歴史で見ると、1707年の宝永地震では東海地震、東南海地震、南海地震が三つとも連動して起きました。
次の1854年の安政南海地震は東南海地震と南海地震が32時間の差で起きました。その次の1944年の昭和東南海地震、1946年の南海地震と2年の差で起きました。
だいたい3回に1回は3つの地震が連動しており、最新は1707年の宝永地震です。東海地震はしばらく起きていませんから、それだけエネルギーをため込んでいます。
次はきっと3つの地震の連動が起こるでしょう。東海地震のパスはありません。
――どのくらい大きな地震になるのでしょうか。
鎌田:死者30万人、被害総額290兆円とされています。東日本大震災は死者2万人、被害総額はおよそ20兆円でしたから、どれほどすごいかわかるでしょう。
15倍もの差がある最大の理由は、南海トラフ巨大地震の影響を受ける地域に多くの人が住んでいるからです。人口密度の高い地域ほど災害が拡大するのです。
――そんなに大きな地震が2030年代に起こると予想されるのですから、今からいかに対策するかが重要なのですね。
いつどこで起こるかわからない直下型地震
――首都直下地震はどうなのでしょうか。
鎌田:首都直下地震は主に首都圏地下の活断層で起きます。地層が断ち切られて、その面を境に両側がずれているのが「断層」ですが、断層のなかでも、過去に繰り返し地震を起こしたことがあり、これからも地震を起こしそうなものが「活断層」です。
東日本大震災後、大陸プレートが引き延ばされて地盤が不安定になったことで活断層が動きやすくなりました。日本列島に活断層は2000本以上もあるので、いつどこで地震が起きてもおかしくありません。
こちらは「何年後に起こる」という予測はできないのです。ペースでいうなら、首都直下地震は百年に一回くらい起きているのですが、ここのところは起きていないからエネルギーがたまっています。明日かもしれないし、50年後かもしれません。
首都圏の地下には19か所も震源の候補があり、どこで起こるかもわかりません。ただ、被害の規模はわかっています。首都圏は人口が多いから、被害は東日本大震災の5倍と予想されています。
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』に関連した書き下ろしです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は115万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。第54回ベストドレッサー賞(学術・文化部門)受賞。









