働いている人の大部分は会社や個人に雇用されているわけであるが、雇われて働いている限り労働基準法という法律が適用される。しかし大企業ならいざ知らず、中小企業、とくにベンチャー企業などは、労働基準法という法律の存在は聞いたことがあっても詳しい内容は知らないということが多い。会社側(使用者側)からすると、社員から違法だと訴えられて後から「知らなかった」では、手痛い勉強代を払うことになる。しかし、逆から見れば社員はいろいろ請求できる可能性があるということである。使用者にとっても社員にとっても大切な労働基準法の基本をお伝えしよう。(弁護士・清水陽平、協力:弁護士ドットコム)
ケース1:過労で倒れて退職したうえに
母も入院したため未払い残業代を取り返したい
「病気の母の治療費を捻出したい。そのためには、なんとしても残業代を回収しなければならないんです」
田中氏(仮名、40代男性)は事務所に訪れて言った。悲壮感が漂っていた。詳しく話を聞いてみるとこういうことだった。
田中氏はSEO対策などをしているあるITベンチャー企業(資本金1000万円)に勤めていた。田中氏は、営業部長という肩書きを与えられ、一人で多くの顧客を担当していた。仕事内容は、顧客にとってどのようなサイトにすれば、検索結果の上位に位置づけられるか、ということの分析だった。検索結果の上位にもっていくためには、どのようなキーワードを配置するかなどを日夜、考えていた。
もちろん、ほかにも仕事は山のようにあった。社員数30人ほどの会社であるため、新規顧客への営業もしなければならないし、部下のフォローもある。ベンチャー企業にありがちな、何から何まで、自分で処理しなければならないという環境で働いていた。
そうなれば、労働時間は天井知らず。月曜日から金曜日は9時就業、定時の18時に帰路につくなどほとんどなく、深夜0時頃に終電を逃すまいと急いで退社する毎日だった。ちなみに田中氏の給料は月給制で残業代1日あたり3時間を上限に支払われることになっていた。