実勢価格を知っているのは、サービサーと呼ばれる民間の債権管理回収業者だ。不動産はもちろん、古美術品、絵画、刀剣に至る動産まで、企業のあらゆる資産を実勢価格での真剣勝負で、日常的に売り買いしているからだ。
「時価評価力」を発揮できるサービサーは、事業再生や廃業に伴い債権放棄、債権売却が現実味を帯びるコロナ禍で、一層の活躍が期待されている。
銀行にとって債権放棄が高いハードルであることは間違いない。安易に行えば、国税当局から贈与を疑われる。
中小企業再生支援協議会で事業再生計画を策定すれば、債権放棄による無税償却が認められる。しかし、再生支援協が企業に深く関与するのは多くの場合、計画策定時のみだ。例えばDDSを実施しても、条件変更した債権に課されるコベナンツ(情報開示義務や財務制限といった特約条項)への抵触チェックなど、フォローアップは3年を過ぎればほとんど行われない。
金融機関も、条件変更をした時点で貸倒引当金を積み増しているので、企業への関心は薄れている。
企業にとっては借金が残るばかりで、事業再生の“伴走者”を失うことになる。真の復活が遠のく事態に陥りかねないということだ。
他方、サービサーを活用すれば「資産の売却損」という形で、企業はスムーズな無税償却が可能となる(銀行の100%子会社であるサービサーの場合は「贈与」や「飛ばし」を疑われるため、外部資本を入れた独立ファンドが債権を引き受け、債権管理回収をサービサーに業務委託する形態を整える必要があることも指摘しておく)。
コロナ禍で金融機関は、資本性ローンやDDSなどを活用し、企業に対する資本面の支援を講じる場面が増えるだろう。資本支援をするということは、企業に投資をする、もしくは投資に近い手を打つことだ。そして、投資の成功は時価評価力に左右されるところが大きい。
時価評価力に長けているサービサーを使わない手はない。銀行は不良債権の管理回収で煩わされなくなる。企業としても、事業再生目線を持ったサービサーが買い取った実勢価格に基づき、「新たな債権簿価」を決めてもらえれば、債務削減につながる。早期の事業再生や廃業に希望を見いだすことが可能になるわけだ。
サービサーの活用によって企業が得られるのは、債務のリセットだけではない。
『捨てられる銀行4 消えた銀行員 地域金融変革運動体』橋本卓典著
講談社
1320円(税込)
銀行には債権放棄をした企業を「犯罪者扱い」し、二度と取引をしないといった文化がある。本来、地域に問われる持続可能性に鑑みれば、もっと柔軟に企業に対峙しなければならないのに、だ。しかし、サービサーに債権を売却すれば債権放棄の必要がなくなるため、銀行は企業の状況に合わせて適切な取引をし続け得る。
地域の事業者にとっては事業再生であれ廃業であれ、次のステージに進むことこそが何より重要なのだ。
もっとも、債権の転売を前提としていたり、企業の債務軽減には目もくれなかったりする強欲なサービサーでは、地域の再生はおぼつかない。
再生目線を持つ銀行系のサービサーが存在感を示せるか否かが、地域の未来に大きく関わる。
(共同通信編集委員 橋本卓典)



