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前回コラムで述べた通り、中小企業の低生産性の解決には、構造的問題の解決が必要だ。それなしに、日本が「低生産性」から抜け出すことは不可能だ。そしてその責任の一端は、中小企業と運命共同体である地域金融機関にもある。本稿では、地域生産性革命に挑戦する中小企業の事例を紹介する。(共同通信編集委員 橋本卓典)

低生産性から抜け出すには

 政府が経済財政運営と改革の基本方針「骨太方針」で掲げた中小企業の価格転嫁を通じた賃上げは、政権が代わっても待ったなしの最重要政策である。物価上昇を上回る賃上げが未達に終われば、デフレからの完全脱却のシナリオが狂うからだ。

 前回コラム(参照:「「高コストで複雑な仕事」こそ美学、銀行員も知っておきたい中小企業の低生産構造」)で述べた通り、中小企業の低生産性の原因となっている構造的問題の解決が急務だ。

 日本の製造業は、技術の擦り合わせで複雑な開発をする「経済複雑性」が20年以上も世界一だが、原価情報のひも付く部品表「BOM(Bill Of Materials)」が存在しない。また、「赤字仕事を請け負いやすい」というサプライチェーン(供給網)上の古い商習慣が残る。

 この構造を打破しない限り、日本が「低生産性」を抜け出すのは不可能だ。その責任の一端は、中小企業と運命共同体である地域金融機関にもある。今回は、地域生産性革命に挑戦する中小企業の事例を紹介しよう。キーワードは「Think Small」だ。

「求められるまま」の赤字体質

 バンパーなど商用車部品の開発・製造の大和プレスは創業以来、大手自動車メーカー数社の指定協力工場としてサプライチェーン(供給網)を支えてきた。

 発注元の「指名発注」も含め、求められるままに仕事をこなした。

 だが、大手自動車が事業所の統廃合などの合理化を進めるにつれて、次第に売上高は右肩上がりではなくなった。

 それでも経営スタイルを堅持した。「良い仕事をしていれば必ず報われる」という思いがあったからだ。発注元の要望に応えるため、新規投資(不動産や設備)を行い、新工場も建造した。

 しかし、その結果、メーカー側の車種・製造方針などの変更の影響を受けて、大和プレスには多額の借金が残った。

「こんな仕事あるけど、やりますか」

 売上高を確保し、工場の稼働率を上げるために、そんな発注元からの声かけに深く考えずに応じてばかりいた。こうして受注し続けた結果、いつの間にか製造品目は膨れ上がり、製品別のコスト管理が困難になったことで、赤字体質に陥ってしまった。