毎年2000万枚を超える紙の決算書が、地方銀行などの地域金融機関にとてつもない業務負担をもたらしている実態を浮かび上がらせた、野村総合研究所(NRI)の衝撃レポート。連載『橋本卓典の銀行革命』の本稿では、後編としてデジタル決算書に移行した場合の未来について展望する。(共同通信編集委員 橋本卓典)
決算書入力は「単なる作業」
毎年2000万枚を超える紙の決算書が、地方銀行などの地域金融機関にとてつもない業務負担をもたらしている実態を浮かび上がらせた、野村総合研究所(NRI)の山田彰太郎エキスパートリサーチャーの衝撃的な調査レポートには続きがある。
今回は、地銀の勤務経験がある山田氏だからこそ、光を当てることができた「地域金融の陰」ともいえる非効率な実態について、調査結果とともに深掘りし、デジタル決算書に移行した場合の未来についても展望したい。
山田氏は広島銀行出身で地銀の勤務実態に明るい。調査にもその経験が生きている。
NRIは2024年6月、456の地域金融機関を対象に、決算書の入手・登録事務に関するアンケート調査を実施。回答のあった173(37.9%)を分析した。
調査結果によれば、地域金融機関の営業店で、中小企業の決算書を保管する方法は紙ベースでの保管が47%、紙とPDFが13%、PDFだけが25%、紙ベースかPDFのどちらかが15%だった。少なくとも6割が紙で保管し、書類を保管するスペースを確保している。
決算書を入手・返却する場合も相当な時間を要している。
「決算書の入手に要する平均時間」では「20分以下」が23先、20~40分が68先、40~60分が62先、60分以上が10先あった。現物決算書の返却に要する平均時間は20分以下が30先、20~40分が77先、40~60分が48先、60分以上が5先あった。
他方、決算書情報を手入力する際の平均時間は法人で15~30分、個人事業主で15分以内が最多だった。山田氏は「決算書情報を手入力することで財務や事業内容の理解につながるとの声も聞くが、短時間での手入力は単なる流れ作業になっていることは否めず、手入力が財務や事業内容の深い理解に必ずしも役立っているとは考えにくい」と語る。