コロナショックによる大減産で、世界の自動車市場の成長がストップした。これまで抜本的リストラとは無縁だった自動車産業にもついに再編の波が押し寄せている。資金的余裕のない完成車メーカーが多いことから、その下請けである自動車部品メーカーの「身売り」が続出するようになっているのだ。買い手候補として名乗りを上げているのは、日本電産や商社、ファンドといったゲームチェンジャーだ。特集『大恐慌襲来 「7割経済」の衝撃』の#3(全22回)では、これらの新規参入者が旧来型部品の寡占化と電動化部品の獲得を狙い、ケイレツを切り崩しながら自動車業界の勢力図を塗り替えようとしている。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
監査法人が警告しなかった「突然死」
群馬のサンデンに企業・ファンドが殺到
群馬県伊勢崎市――。6月30日、自動車部品大手のサンデンホールディングスが私的整理の一種である事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)を申請した。カーエアコン向けのコンプレッサーでは世界シェア2位を握る、歴としたグローバル企業である。
サンデンは、トヨタ自動車や日産自動車といった完成車メーカーの「ケイレツ」に属さない独立系メーカーだ。ある自動車メーカー幹部は「『困った時のサンデン』と言われていた。完成車に連なって海外進出する系列部品メーカーとは異なり、パキスタンやスウェーデンなどサプライヤーが集積していない国にも積極的に進出していたりする。突然、完成車メーカーがサプライチェーンの支障で部品を調達できなくなったときに、気がつけばそこにサンデンがいて重宝したことがあった」と振り返る。
近年は業績悪化に苦しみ、昨年9月には自動販売機などを手がける流通システム事業を投資ファンドへ売却。カーエアコンを主軸とする自動車機器事業へ経営資源を集中させることで経営を再建するビジョンを描き、着実な歩みを見せていたはずだった。
ところが、不幸なことにそのタイミングでコロナ禍が襲来した。欧州や中国などの主力工場が操業停止に追い込まれ、自動車機器事業の業績が急降下。20年3月期決算では、前年同期比で売上高約100億円が一気に吹き飛び、34億円の営業赤字に転落してしまった。
この3月以降、コロナを言い訳にして法的・私的整理に追い込まれた自動車部品メーカーは他にもあるが、もとより基礎疾患を抱えていた事例がほとんどである。しかし、サンデンの場合は違う。
ある自動車アナリストは「直前の決算でも、監査法人により継続企業の前提に関する注記が付けられる“警告”がなされていなかった。経営が再建軌道に乗ろうかというタイミングでコロナ禍に直面した。自動車部品業界では、真の意味においてコロナの犠牲で “突然死”した最初の大型案件だ」と言い切る。
もっとも、サンデンが自動車・金融関係者から大注目を浴びているのは、初の大型案件だからという理由だけではない。おおまかに言って、三つの視点がある。
一つ目は、サンデンの本拠地が群馬にあることだ。
ある銀行幹部は「有力政治家を多数、輩出している地盤。自動車産業は裾野が広く、雇用へ甚大な悪影響を及ぼすリスクがあるので、政治家たちもセンシティブにならざるを得ない」と言う。また、前出のアナリストも「群馬県下に生産拠点を持つ自動車部品メーカーのうち、サンデンに続いて経営難に陥りそうな企業がある」と警戒している。
地域経済にとって自動車産業の窮地は大きな打撃となる。結果として「中央の政治家が、自動車部品メーカーを救済する目的で、官製ファンドなど公的スキームの枠組みを整えるインセンティブが生まれる」(同じ銀行幹部)。
二つ目は、群馬県で最大手の地方銀行である群馬銀行とメガバンクのみずほ銀行という大手行が主要取引先銀行として名前を連ねながら、強力な支援を得られずにサンデンが私的整理に追い込まれたことである。金融機関の支援姿勢に疑問符がついたことで、逆に関心が払われているのだ。