相続人は当初、現金の行方に心当たりがないと言っていても、税務調査があまりにも長引いてくると「このくらいの金額で済むのだったら修正申告して終わらせよう」という心境になってしまう。本来、行き先が分からないお金には課税できないのが筋だが、しつこい税務調査に相続人が根負けして、修正申告に応じてしまうことも多い。

 こうした「修正申告の慫慂(しょうよう:そうするように誘って勧めること、現在では勧奨という)」と呼ばれる手段を税務署が取ってくるようになったのだ。

 税務調査官もその道のプロなので、素人の相続人では対応が難しい。税務調査には税理士を同席させるのがベターだといえるだろう。

 余談だが、税務署には管轄エリアがあるため何度も同じ調査官の税務調査を受けることもある。時には、調査官の性格や特徴を踏まえて相手の考え方を先読みした対応も必要だ。

加算税という重いペナルティー
税務調査にどう備えるか

 国税庁が発表している相続税の税務調査の統計によると、1件当たりの否認額(申告漏れ財産)の平均は約3000万円になるという。申告漏れの相続財産があると判断された場合には、相続税の追加納付が必要となる。また本来の申告期限から遅れて払うので、その分の延滞税もかかってしまう。

 だがそれだけではない。税務調査で指摘された申告漏れ財産については、ペナルティーとして加算税が課せられてしまうのだ。加算税は大きく以下の2種類に分けられる。

(1)過少申告加算税……故意ではないが申告が漏れていた場合。追加納付税額×10%
(2)重加算税……故意に税額を少なく申告した場合。追加納付税額×35%

 4000万円の申告漏れがあった場合を例に取ってみよう。

 相続税率は条件によって異なるが仮に30%とすると、4000 万円×30%=1200万円で、この1200万円が追加納付税額となる。さらにここに加算税がかかる。

 過少申告加算税の場合は1200万円×10%=120万円、重加算税の場合だと1200万円×35%=420万円もかかってしまう(実際には延滞税も加わるが、延滞日数によって税率が異なるため省略)。

 こうして見ると、誰しもが税務調査で追徴課税を受ける事態は避けたいと思うのではないだろうか。

 近年、相続税への課税の網は強化される傾向にある。従来なら「うっかり漏れていたようなので過少申告加算税ですね」と言われていたケースでも、税務調査官が最初から「重加算税です」と言ってくることが時折見受けられるようになった。

 重加算税を課すには、相続人による「財産から除外しました」という一文が根拠として必要だった。だが、そんな一文は誰もが書きたくはない。そのため最近は、税務調査の際に調査官が作成する質疑応答記録書の中に、根拠となるような相続人の発言を記録することで重加算税を課そうとするやり方が増えている。

 相続税への課税が強化される中で、税務調査も一段と厳しくなっている。申告の段階から、相続税に精通した税理士と事実を共有して調査に臨むことが、防衛策として今後さらに重要になってくるだろう。