日用品・化粧品のトップメーカーである米P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)は株式時価総額約16兆円。この巨大企業は、なぜ売上高の安定成長と高い利益率を維持できているのか。強さのカギと成長への課題に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 野口達也)
「まさか衣類に香り付けができることで、洗濯を楽しんでもらえるとは」──。
柔軟剤ブランド「レノア」を担当するP&Gジャパンブランドマネジャーの川畑麻美氏が消費者の意外な変化に驚いたのは2008年のこと。洗濯といえば長年、主婦にとって面倒な家事の筆頭に挙げられてきた。ところが、継続的に行ってきた消費者調査に変化が起きた。
この年、日本で未発売だったP&Gの柔軟剤「ダウニー」が輸入雑貨店などで売れ始めた。ダウニーは甘い香りが特徴だ。若い女性や主婦を中心にこの強い香りを楽しむ層が形成されたのである。
P&Gはすかさず、他社に先駆けて香りを重視した柔軟剤「レノアハピネス」を08年に発売。読みは当たり、ヒット商品となった。
香りに対する消費者の欲求はその後も高まり続け、「もっと濃厚な香りが欲しい」という声も目立つようになった。そこで今年2月には衣類の香り付け専用商品「レノアハピネス アロマジュエル」を発売した。柔軟剤ではない。機能は香り付けだけだ。この新ジャンルが大受けし、販売を一時中止するほどの売れ行きを見せた。
9月に発売したダークローズ&チェリーの香りがするレノアハピネスには、香りを閉じ込める「マジックビーズ」を配合した。衣服をこするとマジックビーズがはじけて香りが飛び出す仕組みで、二つの香りを組み合わせたことで長時間、香りを楽しむことができる。この商品の投入でレノアハピネスシリーズの売上高は1.5倍に拡大した。
P&Gの牽引で巻き起こった柔軟剤の香りブームは、日本の柔軟剤市場全体を引き上げ、市場規模は08年の約840億円から、12年には約940億円に急成長した。P&Gは04年に柔軟剤市場に参入したばかりだったが、現在は28.5%のシェアを持つ。
成熟した日本市場でも「イノベーション(革新)」があれば事業を拡大できる。それこそが世界で勝ち抜くP&Gの神髄なのである。