米オバマ政権が打ち出した「アジアへのピボット(外交・安全保障の軸足をアジアに移す政策)」ほどの無謀な表現は、外交の世界ではめったに聞かれないものだった。現在、ウクライナで起きている戦争が示すように、米国が世界のどこかの重要地域に対して関与をやめることは、これまで一度も可能ではなかった。しかし新たな「太平洋の世紀」への対応を米国の決定的な最優先課題にすべきだという認識が、他地域の敵対勢力を大胆な行動に駆り立てたことは間違いない。この認識は、他の同盟関係、その中でも特に欠かすことのできない北大西洋条約機構(NATO)との同盟関係の意義に疑念を生じさせた。いわゆる「永遠の戦争」を終わらせるとの言い訳の下で行われたアフガニスタンからの不名誉な撤退や、注視すべき唯一のライバルは中国だと主張してきた一連の記者発表が、好戦的なロシアのウラジーミル・プーチン大統領を第2次世界大戦以来で最大の欧州における領土的侵略に踏み切らせたのではないかという問いが、現在の米政権に当然つきまとうことだろう。