米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は今週、先週開始した利上げによって、自身を含めFRBの同僚たちが実現したいと望んでいることを説明した。パウエル氏はエコノミストの会議でこう述べた。「インフレが低下し、失業率は安定した水準にとどまり、経済はソフトランディング(軟着陸)を達成する」その上でFRBは1965、1984、1994の各年に、リセッション(景気後退)を引き起こすことなく、景気の過熱を冷やすまで金利を引き上げたと指摘。新型コロナウイルス禍がなければ、2019年にも同じようになっていた可能性があるとの見方を示した。残念ながら、歴史はパウエル氏の見解を裏付けていない。インフレ率はFRBの目標から大きくかい離しており、労働市場も多くの指標からして、過去にソフトランディングを実現した頃よりも引き締まっている。しかも、FRBは実質金利――インフレ調整後の名目金利――が過去よりも一段と低く、実のところマイナス圏に深く沈んでいる状態から(利上げを)開始するのだ。言い換えれば、経済がすでに制限速度を上回るスピードで走行しているだけなく、FRBはアクセルを床まで踏み切ってきたということだ。インフレ率を目標の2%に回帰させるには金利を相当な高水準に引き上げる必要であり、景気後退に陥るリスクはFRBが現在想定しているよりも高くなるだろう。