3月に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家だ。
そんな平尾氏が本当はやりたかったけどできなかった事業」を実現した、究極の別解力をもつ起業家として尊敬するのが、マネーフォワード代表取締役社長CEOの辻庸介氏。ソニー、マネックス証券を経て2012年に起業。銀行口座やクレジットカード情報を一元管理し、家計簿を自動で作成する『マネーフォワード ME』をはじめ個人・法人のすべてのお金の課題を解決することを目指しサービスを提供している。2021年には著書『失敗を語ろう。』を出版し、東証一部へ上場を果たした。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代。そこで圧倒的な成果を出しているおふたりに「起業家の思考法」について語っていただいた。
連載第1回は、平尾氏と辻氏の起業家としてのタイプの違いから、それぞれの成功の秘訣が見えた。
（写真 株式会社じげん・津田咲 構成 宮本恵理子）
自分のパーソナリティに合ったやり方を選ぶ
平尾丈（以下、平尾） 辻さんは私が“本当はやりたかったけれど、できなかった事業”を実現した起業家のお一人です。「個人に紐づくお金の情報をすべて集めてデータを統合できたら便利な世の中になる」というイメージは描いていましたが、非常に厳かな日本の金融の業界でそれがどれだけ困難なことかも容易に想像がついたので、簡単には踏み込めない領域でした。
それをマネーフォワードという会社の起業を通じて実現したのが辻さんです。まさに「究極の別解」ですよね。
辻庸介（以下、辻） ありがとうございます。僕からすると、平尾さんがやってきたことは僕にできないことだらけですよ。まず、リクルートに入ってすぐに新規事業コンテストに手を挙げて、しかも新卒メンバーのみのチーム構成でゴール達成してしまうなんて本当にすごい。強い意志と行動の起業家精神が備わっている人ですよね。
平尾 私の場合は、最初から起業する目的で会社に入ったので、限られた時間をどう濃密に活かすかしか考えていなかった。だから、チャンスには全部手を挙げていたんです。
辻 「有限な時間を最大限に活かす」という価値観には、やはりお父さんが早くに亡くなったという体験が強く影響しているのでしょうか。
平尾 そうですね。父のこともありましたが、「貧乏だった」という原体験が今の私につながるエンジンになっていたと思います。社会に出るまでずっと生きるために苦労をしてきたので、シンプルに母を楽にさせたかった。
辻さんは、経営者の家系なので（※辻さんの母方の祖父はシャープ2代目社長の佐伯旭氏）、きっと帝王学のシャワーを浴びて育ったのではないですか。
辻 自分ではあまり意識したことはないですけどね。たしかに祖父は大企業の経営者でしたが、父は普通のサラリーマンでしたし、母は普通の専業主婦で。祖父から言われて覚えていることといえば、「人に感謝しなさい」という教えくらいです。
平尾 そういうお話はとても羨ましいですね。
辻 今の自分が祖父の話を聞ければ、少しは経営に活かせるかもしれないですが、直接聞けたのは子どもの頃ですからね。逆に、勘違いするリスクのほうが大きいと思っています。平尾さんの場合、不屈の精神で他の人よりも戦闘能力を高めているじゃないですか。
平尾 「もう少し早く知りたかったな」と思うことって、ありますよね。
辻 ありますあります。アドバイスさせていただく立場ではないですが、平尾さんの場合、人を信じてみたら、いいんじゃないですか（笑）。
平尾 人を信じないみたいに言わないでください（笑）。
辻 ハハハ（笑）。もちろん、平尾さんは周りの人を信じているからここまで成功されていると思うのですが、さらにもっと信じてみる。結果を出すまで我慢する。
平尾 正直、待つのが苦手なんですよね。投資家には向いていないなと思います。
辻 起業家にもそれぞれにスタイルがありますよね。その人のパーソナリティに合ったスタイルが。僕と平尾さんはパーソナリティが違うから、経営のアプローチも違うかもしれません。でも、自分のパーソナリティに合ったやり方を選ぶほうが絶対にいい。これは僕が先輩の経営者に教わって以来、胸に留めていることでもあるんです。
ありがちなのは、参考にしたい人の話を聞いたり本で読んだりして、全部取り込もうとして自爆するパターン。例えば、僕が（楽天グループ社長の）三木谷浩史さんみたいなカリスマ型のリーダーの真似をしようとしたって無理じゃないですか。だから、シンパシーを感じる経営者を見つけて、その言動や著作から学び取るという方法がベストだと後輩経営者には伝えているんです。その人の全部を取り入れなくても、自分が取り入れるべき一部をインストールする感覚で。
辻庸介（つじ・ようすけ）マネーフォワード代表取締役社長CEO
1976年大阪府生まれ。2001年に京都大学農学部を卒業後、ソニー株式会社に入社。2004年にマネックス証券株式会社に参画。2011年ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。2012年に株式会社マネーフォワードを設立し、2017年9月、東京証券取引所マザーズ市場に上場。2018年2月 「第4回日本ベンチャー大賞」にて審査委員会特別賞受賞。新経済連盟 幹事、シリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム エグゼクティブ・コミッティー、経済同友会 第1期ノミネートメンバー。著書に『失敗を語ろう。「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと』（日経BP）がある。
