強い思いのある「人」を中心にして、任せる

平尾 あと、私が辻さんの「別解力」として注目しているのが、スポーツチームのスポンサーを始めたり、ベトナムに拠点を置いたりと、どんどん事業の領域を多様に広げている点なんです。

すでに1300人を超える組織でこれだけ機動力高く、発展を続けられるのは、辻さんのバランス感覚の賜物だと思うんです。過去のインタビュー記事では「エンジニア2人、デザイナー1人、企画1人の最少ユニットがコミュニケーションコストが低く、事業がうまく立ち上がりやすい」と語っていらっしゃって、「少ない人数で難しいことをやる」というチーミングの手法に唸りました。辻さんがどういう考えで事業を広げられているのか知りたいです。

 一言でいえば「人」ですね。横浜マリノスさんのスポンサーになる話も、各地の拠点立ち上げも、その領域に対して強い思いのある人が中心になって動いていて、その人たちに任せる形で実現しています。

人は、パッションを持って打ち込めるときが一番アウトプットできるから、チームがやる気を発揮する事業であり、当社のミッションに沿うのであれば、それは投資する価値があると僕は判断します。短期のリターンには見合わなかったとしても、中長期だと十分にペイできると考えていますね。

ベトナムの拠点を立ち上げたときも、リーダーとして現地に赴任したのは創業メンバーなんです。彼はエンジニアでマネジメントが得意なタイプではないんですけど、とにかくいいやつで信頼が厚い。「彼がいれば絶対にうまくいく」という確信があったから行ってもらいましたし、実際に順調ですね。

おっしゃるように、僕はスモールチームに権限委譲して待つタイプ。逆にマイクロマネジメントは苦手なので、それはリスクであり、失敗の原因になることもあります。

平尾 もうマイクロマネジメントできる規模ではないですしね。人の可能性を最大化して、セレンディピティ(偶然の産物)をうまくつなげながら事業に発展させていく。それが辻さんのスタイルなんですね。

 そうですね。ただ一方で、キレイゴトだけではうまく回らないので、「ミッション・ビジョン・バリュー」を明確に定めて、そこに共感・共鳴する仲間だけを集めることが絶対に大事で。加えて能力と人格。特に最近は人格を重視しています。謙虚に批判を受け入れられて、素直に学べる人かどうか。いくら優秀でも、周りが応援したくなる人じゃないと、なかなかチームはうまくいかないので。過去に採用で失敗した経験からも学びつつ、そんな確信に至っています。

平尾 辻さんのような超優秀な経営者でも試行錯誤があったのだと聞くと、勇気が出ますね。

 今でもその途上ですよ。若い頃から起業経験を積んできた平尾さんには到底かなわないです。僕にとっての自分らしいやり方はチーム戦ですが、最後はトップとして意思決定をしないといけない。そこでバリューを出し続けることは常に意識しています。

〈第2回へ続く〉