米雇用は回復も生産性は低下? その訳はPhoto:Jeenah Moon/gettyimages

 この夏、米ユナイテッド航空のジェット機の翼の先端が別の航空機に接触する事故が発生した。経験の浅い駐機場の作業員が機体間の距離を誤って判断したためだ。看護師の中には、実際に患者に触れた経験が一度もないまま学校を卒業し、病院での仕事を始めている人もいる。メキシコ料理チェーンを展開するチポトレは熟練スタッフがいた頃に比べて売上高が落ちているという。

 書類上では、多くの企業の従業員数は新型コロナウイルス流行前の水準に近いか、あるいは2020年初めの人員数を上回ってさえいる。しかし実のところ、さまざまな財やサービスへの需要に応えるために企業が配置した従業員の多くは、まだ十分に職務をこなしきれていない。

 企業はこの1年間、欠員を埋めることに全力を注いできた。企業は賃金を上げたり、実務経験などの採用要件を下げたり、人手不足を解消するためにその場ですぐ採用する体制を整えたりしてきた。

 こうした努力の結果、米国経済はコロナ感染拡大初期に失われた2200万人の雇用を回復した。

 だが従業員の経験の浅さや、ベテラン従業員がこれまで以上に新入社員の教育に時間を割く必要が出ていることなどを背景に、ここ数四半期の労働生産性が低下していると、経営者やエコノミストは指摘する。

 一部業界の企業幹部によると、雇用が研修能力を上回っている。コロナ感染拡大時の退職者の増加や感染者の欠勤、さらには夏休みという要因もある。また、新入社員のほうが既存社員よりも離職率が高いため、研修の回数が増えることになる。さらに、職種や業種を乗り換える米国人も多く、経験のない新たな業務に就いたばかりの人が増えている。