防衛費「GDP比2%」ありきの増額論議が抱える決定的な欠落軍事力の増強だけが国民の安全を保障するわけではない。外交や経済安全保障を含めた総合的な安保戦略の下、真に効果的な防衛力の在り方を探るべきだ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

来年度予算要求総額は110兆円
防衛費は5.5兆円と「事項要求」

 8月末に締め切られた来年度予算の概算要求総額が、5日、110兆484億円と過去2番目の大きさとなることが明らかにされた。

 コロナや物価対策、脱炭素など、金額を示さない「事項要求」だけのものもあり、要求額はさらに膨らむ見通しだ。

 とりわけ懸念されるのは、「5年以内にGDP比2%」まで増やすという防衛増額の議論が独り歩きしていることだ。

 政府は防衛費の増額や財源を議論する有識者会議を新設し、「必要となる防衛力の内容」「予算規模」「財源」の三つの論点を検討し、年末の予算編成につなげるという。

 ロシアのウクライナ侵攻や中国の海洋膨張で日本をとりまく安全保障環境が激変したことは確かだが、「GDP比2%」の数値に特別の根拠があるわけではない。

 主要国でも突出した政府債務を抱える日本の財政事情を考えると、そうした大規模な予算措置は現実的ではない。

 必要となる防衛力の内容やどこまで防衛費を積み増す必要があるのか、その場合の財源をどのように調達するのか、増税が避けられないことを考えれば、「数値ありき」ではなく十分な国民的な議論を経る必要がある。