軍事ビジネス&自衛隊 10兆円争奪戦#7Photo:kyodonews

防衛省に昇格する前の防衛庁は、財務省出身者が防衛事務次官となる“財務省の植民地”だった。防衛省が自立を強める過程で日本の安全保障環境が深刻化し、「国防」が日本の優先課題になっている。“かつての親”である財務省に加えて、経済産業省、外務省、警察庁が防衛省が担当してきた国防分野に介入し、権力闘争が繰り広げられている。特集『軍事ビジネス&自衛隊 10兆円争奪戦』(全25回)の#7では、国防をめぐる「エリート4省庁」の対立構造を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

司令塔・国家安全保障局で勃発
警察庁vs外務省の頂上決戦

「(安倍晋三元首相が狙撃された事件で)警察庁や奈良県警の警備体制に不備があったという話が、ある時を境に、政治家と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との蜜月関係が問題だという話にすり替わった。このように世論を誘導したのは警察なのではないか――」

 ある防衛省関係者が声をひそめる。そう思案を巡らせる根拠は、国防分野を舞台に霞が関の「エリート官庁」が権力闘争を繰り広げていることにある。

 国家安全保障局(NSS)。日本の安全保障政策の司令塔を担う行政機関だ。NSSは霞が関キャリアの寄せ集め部隊で、警察庁、外務省、防衛省、経済産業省、財務省の5省庁の発言権が特に強い。とりわけNSSの局長ポストを争う警察庁と外務省は、激しいつばぜり合いを演じてきた。

 安倍元首相襲撃で警備の責任を問われた奈良県警の鬼塚友章本部長は、NSSの二代目局長を務めた警察庁OB、北村滋氏の秘蔵っ子である。かつて安倍元首相は北村氏を重用し、初代は外務省OBが就いた局長ポストをあてがった。指定席を奪われた格好の外務省の焦りは尋常ではなかったらしい(その後、現在の三代目局長は外務省OBが返り咲いた)。とにもかくにも、警察庁vs外務省の主導権争いは今も続いている。

 冒頭の防衛省関係者の読みはこうだ。国民から集中砲火を浴びた警察庁は、その信用が地に堕ちる寸前のところで旧統一教会の政治スキャンダルネタを世間に投下。世間の警察庁への批判を軽減することに成功し、外務省による追い落としを免れた――。

 こうした“読み”がまことしやかに語られること自体、権力闘争が熾烈化しているということなのだろう。

 中国、ロシア、北朝鮮の軍事力強化により、日本の安全保障環境は戦後最大の危機を迎えていると言っていい。ある防衛企業幹部は「国防、安保政策は国民の反発を生むばかりで選挙の票にならない。だから政治家は真正面からの議論を避けてきた」という。だが近年、国防は政治の最重要テーマへと格上げされた。

 ついに与党・自民党は防衛予算を倍増させる方針を掲げた。国防が権力と予算がうごめく権力闘争の舞台へと様変わりしたのだ。

 次ページでは、国防巡り勃発した「エリート省庁」による知られざる五つの対立劇を完全解剖する。警察庁、外務省、経産省、財務省による血みどろの権力闘争とはどのようなものなのか。