軍事ビジネス&自衛隊 10兆円争奪戦#16Photo:AFLO

経済産業省が主導した経済安全保障推進法が成立した。これにより、半導体や医薬品など「特定重要物資」のサプライチェーン確保に国が関与できる仕組みが整った。建前上、防衛装備品を特定重要物資に指定できる建て付けになっており、防衛省は経産省にテリトリーを荒らされた格好だ。そこで防衛省は、経産省に対抗しようと「防衛省版・経済安保推進法」ともいえる新法を提出しようとしている。特集『軍事ビジネス&自衛隊 10兆円争奪戦』(全25回)の#16では、防衛省による“経済省対抗案”の中身を明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

経産省が防衛省のテリトリーに“侵入”
「特定重要物資」の範囲を巡り火花

「防衛省がどのような対抗案を出してくるのか、お手並拝見だ」。ある経済産業省幹部はこともなげに言う。

 今年5月、日本の安全保障を経済面で確保するための法律――、経済安全保障推進法が成立した。絵を描いたのは経産省だ。米中による覇権争いの激化やロシア・ウクライナ戦争の勃発により、半導体、レアアース、医薬品など重要物資の供給確保が困難になっていることから「国の抜本的支援」が必要になったことが法律制定の背景にある。

 以下の図は、経済安全保障推進法の「四大テーマ」だ。特に重要視されているのが、①「特定重要物資」の供給網(サプライチェーン)の強化と④先端技術の開発支援。前者は、半導体など重要物資のサプライチェーンを確保するために国が介入できる。後者は宇宙、海洋、量子、人工知能(AI)など先端分野の研究開発に国が資金投入できるようになる。

 経産省は、半導体やレアアースなど多くの“特定重要物資”候補の産業政策を担当している上、技術流出のストッパーとなる輸出管理も所管しており、これまでも安保政策の一翼を担ってきた。

 今回の経済安保推進法を機に、経産省は国防・安保分野への介入を一層強めようとしている。実際に、建前上は、戦闘機や弾薬などの防衛装備品を特定重要物資として指定できる建て付けになっている。

 この“越境行為”を面白くないと思っているのが防衛省だ。防衛省の外局である防衛装備庁は防衛装備品の調達・開発を担当しており、防衛産業については経産省よりも実情を分かっているという自負がある。「自分のテリトリーに経産省がずかずか入ってくるな」というのが防衛省の本音なのだ。

 すでに、防衛省は水面下で動き始めている。「防衛省版・経済安保推進法」ともいえる新法の提出を画策しているのだ。

 果たして新法の中身とはどのようなものなのか。次ページでは、防衛省による“経産省対抗案”の中身を初めてつまびらかにする。