他の霞が関省庁とは離れて東京・市谷に居を構える防衛省。防衛庁時代から財務省にグリップを握られており、その一方で陸海空の各幕僚監部を御さなければならないという難しい“立ち位置”の組織だ。そうした他の省庁にない特殊性は幹部人事にも如実に表れている。特集『軍事ビジネス&自衛隊 10兆円争奪戦』(全25回)の#18では、幹部の出世コースを解き明かすとともに、世代別の次官候補の実名を挙げる。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
安倍元首相側近の大物元次官が失脚
政治と財務省に翻弄される防衛省人事
安倍晋三元首相の側近中の側近だった大物元次官の幕切れは、あまりにもあっけなかった。
島田和久氏(S60年入庁。以降、かっこ内は入庁年)は、安倍元首相の内閣総理大臣秘書官を6年半以上も務め、防衛省に戻ってわずか1年で防衛事務次官に上り詰めた人物だ。今年7月に次官を退任した際には、岸信夫・前防衛相(安倍元首相の実弟)が島田氏の留任を求めたが、岸田文雄首相が認めなかったとされている。安倍元首相と岸田首相との間に隙間風が吹いた人事として、波紋を呼んだ。
8月10日、新任の浜田靖一防衛相は「防衛大臣政策参与」兼防衛省顧問の島田氏について、防衛大臣政策参与としての続投は認めなかった(省顧問は留任)。ポスト安倍という政治のパワーシフトを前に、大物幹部が独り表舞台から消えた。
防衛省OBによれば「島田さんは、何年かに1度出てくる専制君主タイプの“天皇”。周囲は誰も逆らえなかった」と打ち明ける。そして思わぬ形で事務次官ポストが転がり込んできたのが、島田氏と同期の鈴木敦夫氏(S60年)だった。発令直後は「異例の抜てきに本人が一番驚いていた」(防衛省関係者)という。上がりポストの防衛装備庁長官からの昇格なので無理からぬ話だ。
しかし今、日本の安全保障環境は危機的状況にある。安全保障関連「3文書」の見直しや、台湾有事への対応、防衛産業のてこ入れなど防衛省のイベントと課題は山積しており、鈴木氏に右顧左眄している暇はない。それでも防衛省内部からは「防衛産業の地盤沈下は深刻なので、装備品のことが分かる鈴木さんがトップになって、結果的に良かった」との声が漏れる。
鈴木体制は波乱の幕開けになったが、今後の防衛省幹部レースはどうなるのだろうか。
次ページでは、防衛省の出世コースを解き明かすとともに、「次の」次官候補と「次の次の」次官候補の実名を挙げる。他の省庁ではあり得ないサプライズ人事が発令されるなど、防衛省幹部レースの「異常ぶり」に迫った。