仕事の緊張感がとれず、日中は眠くてたまらないのに、夜はぐっすり眠れない。一度眠っても、心配事があって夜中に目が覚めてしまう……。ビジネスパーソンを悩ませる「睡眠の質」問題、どうしたら解決できるのだろう。そこで参考になるのが、Googleで最速仕事術「スプリント(デザインスプリント)」を生み出し、世界の企業の働き方に革命を起こしてきた著者による『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』だ。本書はたちまちのうちに話題となり、世界的なベストセラーになっている。著者のジェイク・ナップはGoogleで、ジョン・ゼラツキーはYouTubeで、長年、人の目を「1分、1秒」でも多く引きつける仕組みを研究し続けてきた「依存のプロ」だ。そんな人間心理のメカニズムを知り尽くした2人だからこそ、本書では、きわめて再現性の高い時間術が提案されている。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、睡眠の質を高める「不眠改善策」を紹介する。(構成:川代紗生)
「寝つき」がよくなる超簡単な方法
「ぐっすり眠りたいのに、夜中に必ずトイレで目が覚める」
「夜は眠れないのに、昼はあくびが止まらない」
「ベッドに入って2時間くらい経たないと眠れない」
せわしなく働くビジネスパーソンとは切っても切り離せないのが、「睡眠問題」だ。筆者も長年、不眠には悩まされており、睡眠薬が手放せなかった。
夕食の時間を変える、起きたら太陽の光を浴びるようにする、寝る前に呼吸を整えるなど、巷で有名な「睡眠改善策」はほとんど試したが、目覚ましい効果が得られるものはなかなか見つからない。
ところが、最近知ったとても簡単な方法を試してみたところ、思いのほか効果があり、驚いた。
それが、「理想の就寝時間の数時間前にスマホやパソコン、テレビを『夜間モード』にする」という方法だ。
先史時代の「労働時間」は週30時間
これは、Google出身のジェイク・ナップとYouTube出身のジョン・ゼラツキーが、多忙な毎日を乗りこなすための戦略をまとめた『時間術大全』に書かれていた方法だ。
本書では、睡眠の質を上げるため、意図的に「『日没』をつくりだす」という戦略が紹介されている。
そもそも、なぜビジネスパーソンは不眠に悩まされやすいのか。それは、人間の本能に抗ったライフスタイルをおくっているからだ。
本来、ホモ・サピエンスは狩猟採集生活を基本とし、日光が出ると狩りに出かけ、暗くなると洞窟に戻って眠るのがルーティンだった。
当然、日光が出ているときしか動かないので、「当時の人間の労働時間は週30時間ほど」というのが人類学者の推定だそうだ。
私たちは、そんな古代人の子孫だ。ところが、現代では、私たちの体の進化よりもずっと速く、ワークスタイルが進化し続けている。
日が暮れても私たちの周りは、ブルーライトを放つデバイスに溢れ、脳を刺激する情報が次々にやってくる。
テクノロジーや文化は目まぐるしく変わり続けているが、そのスピードに、私たちの心身はまだ、ついていけていないのだ。
では、どうすれば「古代人」的な心身と「現代人」的な社会のギャップを埋められるのか。
「古代人」の睡眠環境を再現する
そこで、本書で提案されているのが、古代人がぐっすりと眠っていた「洞窟」の環境を、現代で再現してみよう、という面白い考え方だ。
そのうちの1つに、「光」をコントロールして脳を少しずつ休ませていく方法がある。具体的には、次の4つだ。
2. スマホやパソコン、テレビを「夜間モード」にする。青い画面が赤みや黄色みがかった色になり、明るい空を見つめるのではなく、キャンプファイアを囲んでいるような気分になれる。
3. 寝るときは部屋からデバイスを全部出す。
4. 日光や街灯の光が寝室に入ってくる場合、簡単なアイマスクで目を覆ってみよう。(P.279-280)
筆者もいくつか試してみたが、もっとも簡単で取り組みやすく、かつ効果が大きかったのは、「夜になったら切り替え可能な光は全部オレンジ(暖色系)にする」という戦略だった。
よくよく自分の生活を振り返ってみると、眠るギリギリまで、「昼光色」の明かりの下で生活をしていたのだ。「昼光色」とは、オフィスなどでよく使われる、青みがかった白の照明だ。
「昼光色は交感神経を刺激する効果があり、仕事に集中したいときにおすすめ」と知って、自宅の作業部屋に導入していたが、ずっとこの光の下で生活していると、逆に、夜になってもリラックスできないというデメリットがあったようだ。
就寝4時間前から「Night Shift」を活用
デバイスのライト調整も、思いのほか差が大きかった。
たとえば、iPhoneには、「Night Shift」という機能がある。
【「設定」→「画面表示と明るさ」→「Night Shift」をオン】で設定ができ、ディスプレイの色を暖色系に統一することができる。
「まぶしい」と感じることが減ったのはもちろん、ディスプレイがオレンジがかっていると、いつもより画面が見えづらいため、コンテンツの魅力が最大限伝わってこなくなった。
インスタグラムなどで写真を眺めたり、通販サイトを物色したりしても、オレンジがかっているおかげで、サングラスをかけながら見ているような気分になる。
色がいつもより鮮やかではない上、正確な色味がわからないので、中毒性が下がり、「明日でいいか」と切り替えられるようになった。
これはあくまでも一例だが、ちょっとした工夫の積み重ねで、「洞窟」環境の再現は可能なのだ。
本書には、全部で87もの時間術が書かれている。本記事で紹介した戦略は、ほんの一部でしかない。
もちろん、87つすべてが自分に合うわけではなかったが、いまの自分にしっくりくるものも多数見つかった。不眠だけでなく、ライフスタイル全般を整えたい人に試してほしい1冊である。