唯一学区が残る千葉県の事情

 千葉は、政令指定都市の千葉市(約98万人)が大きく、JR総武線・京成本線とJR京葉線沿線に中核市の船橋市と同候補市の市川市が、JR常磐線・つくばエクスプレス沿線には中核市の柏市がある。

 関東で唯一、現在も学区が残っている。もっとも、隣接した学区も受験可能であり、例えば第1学区の千葉市の県立高校は、五つの学区からも受験できるわけで、通学時間を考えれば妥当な設定なのかもしれない。県立校では2校だけ全県から受験可能となっている。それが千葉女子と木更津東で、いずれも女子校だ。県内には私立中高一貫女子校も市川市に2校だけ残っている。

 県立トップ2校を中高一貫化したのが千葉公立校最大の特徴だろう。その背景には、旧制中学以来の絶対的エースだった千葉高校の地位が、1983年設立の新興私立校である渋谷教育学園幕張(渋幕/千葉市美浜区)に奪われてしまったという事情がある。

 これは県教委にとってはゆゆしき事態であり、2008年に中学を付設した。千葉には、中学・高校ともに、力のある教員が配置されている。千葉の伝統をうかがわせる、窓際から続く長い黒板も、いまやプロジェクターのスクリーン代わりになっているように、ICT機器の活用にも熱心だ。また、05年度から総合学習の一環として「千葉高ノーベル賞」を実施。伝統の良さに進取を続けている。

 実は千葉でも75年度から3年間だけ学校群が導入されている。第一学校群には千葉、千葉女子、千葉東、千葉南、市立千葉が、第二学校群には船橋、船橋東、薬園台、市立船橋、市立習志野、八千代が属していた。早々に取りやめたため、都立校ほど深手を負うことはなかったものの、一時的にせよ、千葉や船橋の進学実績には影響を及ぼしている。

 現状では、高校受験でも千葉私立御三家の市川(市川市)や東邦大学付属東邦(習志野市)が4位千葉と17位東葛飾の上にかぶさっており、県内での公立校による首位奪還はかなり困難な道のりといえそうだ。

 千葉県教委も進学指導重点校をこれまで11校指定している。千葉(第1)は指定されず、東葛飾(第3)は指定後の15年に中高一貫化して抜けているため、現状は10校である。合格力順位と九つある学区も併記しながら、順に見ていこう。

 県立御三家の一つである3位船橋(第2)、旧制高等女学校の後身である13位千葉東(第1)、佐倉藩の藩校を前身とする15位佐倉(第4)、23位佐原(第5)、28位木更津(第9)、38位長生(第7)、40位柏(第3)がランクインした。他に安房(第8)、成東(第6)、匝瑳(そうさ/第5)があり、各学区に1校ずつは置くというバランス重視の政策的配慮がうかがえる。

 市立高校は、千葉市の31位市立千葉のほか、船橋市、習志野市、松戸市、柏市、銚子市にもある。渋幕と同じ美浜区にある市立稲毛は、普通科に加えて30年前以上前に国際教養科が設置されたユニークな存在で、まず県内公立校で初めて中学を付設した後、22年度から稲毛国際中等教育学校へ衣替えをしており、今後、非常に期待が持てる公立進学校である。

 こうして見てくると、県教委のホンネは、学区を維持しながら県内の地域バランスを図りつつ、人口が集まり私立中高一貫校との競争も激しい第1学区(千葉市)や第2学区(船橋市や松戸市など)、第3学区(柏市など)には多様性も確保しながら進学力向上に向けて注力していきたいというところにありそうだ。29位小金(第2)、35位薬園台(第2)もランクインしているように、進学校の多くは東京に寄った下総エリアにある。

※次回に続く

【訂正】 本文第16段落、初出時『33位の神奈川国際は実験的な学校かもしれない』を『32位の神奈川総合は』に、『神奈川国際は私立一貫校でブームのSTEAM的な教育を取り入れようとしているといえなくもない』の『神奈川国際』を、『神奈川総合』に訂正いたします。(2023年5月19日 15:11 ダイヤモンド社教育情報)