新型コロナウイルス禍が落ち着き始め、企業業績への影響も緩和されてきた。だが、円安、資源・原材料の高騰、半導体不足といった難題がいまだに日本企業を苦しめている。その状況下でも、企業によって業績の明暗が分かれているが、格差の要因は何なのか。上場企業が発表した直近四半期の決算における売上高を前年同期と比べ、各業界の主要企業が置かれた状況を分析した。今回は東京電力ホールディングス、東京ガスなどの「電力/ガス」業界5社について解説する。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)
従来の水準に比べると
5社の増収率はやや落ち着いた
企業の決算データを基に「直近四半期の業績」に焦点を当て、前年同期比で増収率を算出した。今回の対象は以下の「電力/ガス」業界5社。対象期間は2022年11月~23年3月の直近四半期(4社いずれも23年1~3月期)としている。
各社の増収率は以下の通りだった。
・東京電力ホールディングス
増収率:26.6%(四半期の売上高2兆2861億円)
・関西電力
増収率:30.7%(四半期の売上高1兆1787億円)
・中部電力
増収率:33.5%(四半期の売上高1兆1726億円)
・東京ガス
増収率:31.7%(四半期の売上高9894億円)
・大阪ガス
増収率:27.5%(四半期の売上高6786億円)
電力/ガス業界の5社は、いずれも3割前後の増収だった。だが、これまでの四半期に見られた約5~7割という大幅な増収率と比べると、やや落ち着きを見せている。
その要因は、高騰していた燃料・原料価格が下落し始めたことだ。
これまで本連載で解説してきた通り、電力/ガス業界では22年以降、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で燃料・原料価格が高騰し、調達コストも急上昇していた。
各社は増加したコストを吸収するべく、燃料・原料価格の上昇分を電気・ガス料金に転嫁してきた。各社の大幅増収の要因は、この値上げによるところが大きかった。
また、電力・ガス会社に適用される、燃料・原料費の変動分を料金に自動転嫁する制度(※)には、需要家保護の観点から上限額が定められている。燃料・原料費の増加が一定の水準に達すると、企業側はそれ以上、料金への上乗せができなくなり、差額を自社で負担する必要性が生じる。
※電力業界の燃料費調整制度、ガス業界の原料費調整制度
その影響もあって、電力3社と大阪ガスでは「増収減益」が続き、いずれも第3四半期累計(22年4~12月期)で最終赤字に陥っていた(東京ガスは最終黒字)。
だが、燃料・原料価格の下落によってコストが減少したことから、赤字が続いていた4社は一転して第4四半期(23年1~3月期)には最終黒字を計上。利益面が回復基調に転じ始めた。
また4社の中には、第4四半期の黒字額によって第3四半期までの累計の赤字を跳ね返し、通期決算でも最終黒字化を果たした企業も複数存在する。
その企業はどこなのか。次ページ以降では各社の増収率の推移と併せて、利益面について詳しく解説する。