JERAは2015年の発足以来、2代続けて社長ポストを中部電力出身者が、会長ポストを東京電力ホールディングス(HD)出身者が押さえてきた。だが、今春のトップ人事は慣例には倣わず、両社の出身者による共同CEO(最高経営責任者)体制とした。特集『時価総額2兆円!? 上場前夜「JERA」大解剖』(全8回)の#2では、“親”会社である東電HDと中部電に加え、JERAの3者の深謀遠慮がにじむ異例の新体制発足の経緯に迫る。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
東電・可児氏が優勢だった
確かな「根拠」があった
燃料調達・火力発電会社であるJERAの2023年3月期決算の売上高は4.7兆円、純利益は178億円(燃料調整費の期ずれ影響を除いては2003億円)となった。売上高、純利益共に国内の電力業界では3位の規模だ。非上場ながら業界での存在感は大きい。
JERAは東京電力ホールディングス(HD)と中部電力の合弁会社であり、15年の発足から急成長を遂げてきた。そのJERAの経営のかじ取りは、株主である両社の出身者らが担い、経営体制も両社の「すみ分け」がなされてきた。
発足から2代続けて東電HD出身者が会長ポストを、中部電出身者が社長ポストを押さえ、両社が経営の監督と執行の機能を分け合ってきたのだ。
今年4月のトップ交代を前に、社長レースの下馬評で本命に挙げられていたのは中部電出身で経営企画畑の奥田久栄副社長(当時)と、東電HD出身で事業開発畑の可児行夫副社長(同)である。
両氏は15年のJERA発足の立役者で、早くから社長候補と目されてきた。ただし、両氏は「戦友みたいな感じ」(可児氏)という良好な関係を築いてきた(詳細は6月7日(水)配信予定の本特集#3『「JERAは電力会社ではない!」東電出身の新会長が明かす、電力業界と一線を引く理由』参照)。
今春の人事を巡って多くの業界関係者が優勢とみていたのは、慣例通り、中部電出身者である奥田氏だ。実は、単なる慣例という一言では片付けられない「深い理由」も見立ての根拠にあったのだが、それは次ページで詳細を解説する。
しかし、ふたを開けてみれば、トップ人事は驚きの着地を見せた。2月下旬に発表されたトップ人事は、社長の称号こそ奥田氏に付いたものの、可児氏と奥田氏の共同CEO(最高経営責任者)体制だったのだ。正式な肩書は、可児氏が会長グローバルCEO、奥田氏が社長CEO兼COO(最高執行責任者)となり、執行機能をツートップ体制としたのである。
これはJERAに折半出資する東電HDと中部電という株主の間の関係でいえば、「中部電が東電HDに譲歩した」ようにも映る。
では、異例の新体制発足を巡り、どのような動きが水面下で繰り広げられたのだろうか。実は、むしろ確かな根拠を基に、「東電HD出身の可児氏こそ優勢だった」と振り返るJERA関係者もいる。次ページでは、“親”会社2社とJERAの3者の深謀遠慮が渦巻いた異例のトップ人事決定の深層に迫る。