上場前夜「JERA」大解剖#1Photo:PIXTA

国内大手電力会社が厳しい経営環境に置かれる一方、非上場で日本最大級のエネルギー会社であるJERAは抜群の成長ポテンシャルを誇る。だが、同社のさらなる成長と健全な財務基盤を両立するには「増資」は欠かせない選択肢だ。特集『時価総額2兆円!? 上場前夜「JERA」大解剖』(全8回)の#1では、グローバルメジャー入りを目指すJERAが採り得る新規上場など三つの資金調達シナリオについて徹底取材を基に大胆予想した。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

JERAは電力業界で「上位概念だが序列の外」
増資&企業成長でさらに突き抜けた存在へ

「当然選択肢の中から排除する必要はありません」

 JERA(ジェラ)が異例の共同CEO(最高経営責任者)体制への移行を発表した2月22日の記者会見。新規株式上場の意向を問われた、東京電力ホールディングス(HD)出身の可児行夫・JERA副社長(当時、現会長グローバルCEO)はそう答えた。

 JERAは2015年に東電HD(当時は東京電力)と中部電力の合弁で発足。両社の火力発電部門や燃料トレーディング部門がJERAへ切り出された。政府も関与した電力業界の異例の大再編は、小売り全面自由化をはじめとした電力システム改革の真っ最中ということもあり、業界激変の象徴となった。

 JERAの発電容量(能力)は日本最大で、実際の発電電力量は国内の約3分の1を占める規模だ。業績面では15年の設立から急成長を遂げ、主要な経営指標は、「中3社」と呼ばれる大手電力トップスリーの東電HD、関西電力、中部電に比肩する。総資産は約9兆円(23年3月期)に上り、電力業界では東電HDに次ぐ規模だ。ただし事業形態が特殊なため、大手電力間では「上位概念だが序列の外」という認識を持たれている。

「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」。JERAはそんなミッションを掲げる。具体的には、脱炭素をキーワードに、再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギーの供給に向けた基盤構築や、アンモニア・水素のバリューチェーン構築といった、さまざまな取り組みが進行中だ。

 ただし、ミッションの実現に必要となるのがリソース、とりわけ資金である。「とにかく相当お金がかかり、ミッション達成にIPO(新規上場・公開株)しないでいけるかどうかがポイントになってくる」。可児会長も独特な言い回しでそう語る。いずれにしろ、十分な資金を調達して成長の原資に投じることができれば、JERAはもはや国内大手電力と比べる者がいなくなるほど突き抜けた、唯一無二の存在となるのだ。

 新規上場を含めた増資の判断時期については、同じ会見で中部電出身の奥田久栄副社長(当時、現社長CEO兼COO〈最高執行責任者〉)は「25年度の経営目標のめどを付けた後、その後のことを考える」とだけコメントした。

 一方で、4月末にダイヤモンド編集部が実施した単独インタビューに対しては、そのめどについて、「今年度の収支をしっかり分析する中である程度出てくるのではないかという予感はします」と踏み込んでいる(詳細は6月8日〈木〉配信予定の本特集#4『JERA新社長が異例のツートップ体制を「ベスト!」と言い切る理由』参照)。

 仮にJERAが新規上場に踏み切れば、その規模はすさまじいものになる。JERAが掲げる25年度の経営目標では、純利益は、燃料費調整の期ずれの影響を除いて2000億円だが、今期の純利益予想は3000億円(期ずれの影響を含む)。これをベースに単純計算すると、時価総額はなんと2兆円前後になる。論をまたず、巨大な新規上場案件なのだ。

 ただし、上場には懸念材料もあり、JERAは他の増資シナリオも検討しているとみられる。ダイヤモンド編集部は、JERAが検討する三つの資金調達シナリオの実現可能性を大胆予想。次ページでは、既存株主の東電HDや中部電のほか、JERA自身の思惑も交錯するそれらのシナリオを解説する。