写真:東京地方裁判所実際に提訴されれば、巨額カルテル事件の取り消し訴訟の舞台となる東京地方裁判所 Photo:PIXTA

公正取引委員会が、関西電力を扇の要に中部電力、九州電力、中国電力が絡んだと認定した電力カルテル事件。うち中部電、中国電は巨額の課徴金納付命令の取り消しを求める訴訟を提起する方針を示し、九電も検討中だ。公取委の処分に対し、事業者側の勝率は低いといわれているが、どれぐらいなのか。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、公取委に出向経験がある松田世理奈弁護士のインタビューをお届けする。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

カルテルの「合意」のニュアンスとは
公取委は「暗黙のうちに認容」を立証へ

――公正取引委員会から275億円の課徴金納付命令を受けた中部電力が直ちに、707億円の課徴金納付命令を受けた中国電力が続いて、処分の取り消しを求める訴訟を提起する方針を示しました。

 課徴金の額が大きいことからすれば、さまざまな利害得失を踏まえた上であり得る判断だろうと思います。公取委としては、司法判断でも自分たちの認定、判断が覆らないだろうと自信があるから命令を発出しているので、訴訟が提起された場合には、粛々と対応してくるものと思います。

 ちなみに、カルテルでは「合意」と表現されることがよくありますが、一般に言う合意のニュアンスとは少し異なっていて、「競争制限的な行為を取ることについて事業者間で相互に認識して、それを暗黙のうちに認容する」ということになります。裁判では、公取委はこの点を立証しなければなりません。

 なお、公取委の処分に対する不服申し立ての制度についてお話をすると、平成25年(2013年)の法改正で、制度が大きく変わりました。

 以前は、命令に不服がある事業者は、まず公取委に行政審判を申し立てて、その審判での公取委の判断に不服があれば、そこで初めて司法判断を受けることとなっていました。その場合には、高等裁判所に訴訟を提起して、さらに不服があれば最高裁判所に上訴するという流れでした。

 現在は、独占禁止法改正により行政審判が廃止され、取り消し訴訟制度に移行しましたので、公取委の命令が出たら、最初から裁判所(一審は東京地方裁判所)で司法判断を仰ぐこととなります。公取委はこのような法改正に対応し、自らの事実認定について外部機関である裁判所のチェックを受けるという前提で、具体的な事件の審査において証拠を精査するようになったのではないかと思います。

――公取委の処分を不服とした取り消し訴訟で、過去の事業者側の勝率はどの程度でしょうか。事業者側が勝訴したのはどのような例がありますか。