思い返すと、自分も若いころ、また、じわじわと挫折していく30代から40代、一生懸命読んだ著作家から、そういう部分に聞き耳をたてていた。それを心の糧にしていたように思う。例えば、山本七平という人から学んだ。

 彼は、毀誉褒貶はあるが『日本人とユダヤ人』という本を出版して着目された。そのころグアムから戦後27年目の帰還兵があり、彼もまた南方の戦地で戦ったことから、戦争体験記も書いた。そうしたことがきっかけで50代から有名な著作家になった。
 山本七平自身は、有名になりたいとはまったく思わなかったとエッセイで書いていた。人は日々の仕事をこなして毎日毎日同じように生きていたらそれでいいと思っていたというのだった。その思いは若い日の私の心に深く沈んだ。

 普通の人が世の中に隠れて普通に生きていく。普通でなくてもいい。世の中に評価されなくてもいい。とるに足らないことであっても自分の人生の意味合いを了解しながら生きていくことはできる。誰でもそういうふうに生きていくことはできる。

 本当?

 本当だろうと私は思う。少なくとも私はそうやって生きてきた。そうやって生きるためには、人生のいろいろな局面で自分で考えていくだけでいい。考えて了解する人生は誰もが実現できる。
 考えた結果失敗するかもしれないが、誰かの成功法則を自分で実験するよりも、自分で考えて自分だけの人生を発見していくほうが、結局、納得できる人生になる。
 失敗と思っていたことが自分の内面では成功だったかもしれないし、成功だと願っていたものは自分を縛る妄念だったかもしれない。その違いは自分で考えるしかない。
 他者の評価なんかどうでもいいとまで超然とすることはないが、自分の人生はこういうものだったんだなという、人生の意味の組み替えは自分なりに考えていけばなんとかなる。

 人生、成功はしないかもしれないけど、考えて生きていけばなんとかなるんじゃないか。
 なんとかなって、日々、それなりに生きている実感みたいなものを考えて見つけていけたら、それでいいんじゃないか。そうした思いを書いてみたい。

(次回は3月13日更新予定です。) 


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考える生き方 空しさを希望に変えるために

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ISBN:978-4-478-02323-5

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