PCやスマホからメッセージを送り、誤字に気づいて冷や汗をかくことありませんか。国立国語研究所の教授が「雑な文章」を「ていねいな文章」へ書き換える方法を教える新刊『ていねいな文章大全』から、15の「やりがちな変換ミス」を正しい表記とセットで紹介します。あなたはいくつのミスに気づけますか?(構成・撮影/編集部・今野良介)

現代病としての変換ミス

現代は文字を手で書く時代ではなく、スマホ、パソコン、タブレットで打ちこむ時代です。そのため、「達」の棒が1本足りないなどということに気を遣う必要はなくなりましたが、日本語変換ソフトによる漢字の変換ミスに悩まされるようになりました。

最近の日本語変換ソフトは文脈を考慮して変換するようになっているので、以前よりも変換の精度は上がっていますが、それでも文章をよく読むと、おかしな変換ミスが残っています。しかも、文脈にそれなりに合っている変換ミスが残っているので、かえって発見しにくいのが難点です。

気づくコツは地道な方法があるだけです。「きっと変換ミスが残っているはず」という疑いのまなこを持って自分の文章を見直すこと、それしかないのです。

ただ、この種の変換ミスというのは、「同音異義語」「異字同訓」という日本語の二つの特性に由来するので、変換ミスが隠れていそうなところを探すことはできます。

「変換ミスに気づく目」を鍛えるトレーニング

同音異義語は二字漢語がほとんどですので、二字漢語に注意して見ることで、変換ミスを発見できます。

次の①〜⑮はよく見かけるものですので、一度修正を体験しておくと、ありがちな変換ミスを発見しやすくなります。

【Before】
①今度、人事係に移動になりました。
②いただいたご提案に意義があります。
③お客さまアンケートにご解答ください。
④趣味は熱帯魚鑑賞です。
⑤契約違反の既製事実化に気をつける。
⑥ご好意に感謝申し上げます。
⑦文章の構成をお願いできますか。
⑧グローバル市場に打って出る時期が到来した。
⑨修士過程を無事に終了した。
⑩難問に小数精鋭で挑んだ。
⑪Web製作会社に発注をかける。
⑫このロゴマークは左右対照になっている。
⑬専門家同志で検討したほうが早い。
⑭真夏日の連続で食欲不審になった。
⑮年金は老後の生活を保証するものだ。
誤解される「漢字の変換ミス」15例いくつわかりましたか?

さて、解答です。

①は人事ですから「移動」は「異動」、
②は提案にたいする反論ですから「意義」ではなく「異議」、
アンケートには正解はありませんから③の「解答」は「回答」、
④の「鑑賞」は音楽や映画などの芸術作品に使うものですから「観賞」、
⑤の「既製」は出来合いの商品の意味になりますから「既成」、
⑥は心遣いですから「好意」は「厚意」、
⑦の「構成」では文章の全体構造の設計になってしまいますから「校正」、
⑧は「時期」では弱く、好機到来ということで「時機」、
⑨はじつは二つあり、「過程」は「課程」、「終了」は「修了」、
⑩の「小数」では1より小さい数字の世界になるので「少数」、
⑪の「製作」だと機械で実物を作りそうなので「制作」、
⑫の「対照」は対比を表すので、バランスの良さならば「対称」、
⑬の「同志」は志を同じくする仲間になるので「同士」、
⑭の「不審」には疑いの意味が入るので「不振」、
⑮の「保証」だと社会保障ではなくなるので「保障」が、それぞれ正しくなります。

【After】
①今度、人事係に異動になりました。
②いただいたご提案に異議があります。
③お客さまアンケートにご回答ください。
④趣味は熱帯魚観賞です。
⑤契約違反の既成事実化に気をつける。
⑥ご厚意に感謝申し上げます。
⑦文章の校正をお願いできますか。
⑧グローバル市場に打って出る時機が到来した。
⑨修士課程を無事に修了した。
⑩難問に少数精鋭で挑んだ。
⑪Web制作会社に発注をかける。
⑫このロゴマークは左右対称になっている。
⑬専門家同士で検討したほうが早い。
⑭真夏日の連続で食欲不振になった。
⑮年金は老後の生活を保障するものだ。

「一括変換」を「一括返還」とすると、文章問題が領土問題に拡大し、「お礼は三行以上」から「お礼は産業以上」へとすると、文字の話がビジネスに拡大してしまいます。

このように、誤変換はとんでもない誤解の世界に私たちを引っ張っていくおそれがあります。明らかな誤変換はもちろんですが、一見筋が通っているように見える誤変換こそが誤解の温床で、とくに注意する必要があります。

【Point】
 ・文字を手で書く時代から機械で打ちこむ時代になって、字形のミスは減少する半面、漢字の変換ミスが増加している。
 ・変換ミスは、二字漢語の同音異義語で起こりやすいので、同音異義語の変換ミスを発見するトレーニングが効果的である。
 ・文章を読んでいて一見筋が通っているように見える変換ミスが発見しづらく、とくに注意が必要になる。
 
(記事はここでおわりです)