冒頭で今井さんも触れていた事業ポートフォリオの再構築の必要性です。これまで自前の要素技術で勝負するプロダクトアウト型のビジネスモデルで成立していたものが、顧客の課題解決につながる提案をするマーケットインのビジネスモデルへシフトしているからです。
安定的な経営環境下なら得意な技術のみで勝負できるかもしれませんが、たとえ自社の得意分野でなくても、顧客のニーズに柔軟に応える力が求められる時代になったのです。そのため、自社にない技術は他社との協業やM&Aも含めた共創でクリアすることが、事業ポートフォリオのマネジメントにおいて欠かせなくなったのです。
こうした課題を解決する土台となるのが、まさにレゾナックが定義する共創型人材でしょう。川上から川下まで業界横断でバリューチェーン視点を持ち、自社内の他事業はもとよりベンチャーとのコラボレーションや産学との協働、場合によっては競合とすらつながっていく。その中心的存在になっていくはずです。
共創型人材を生み出し育てる文化をつくる
今井 今のお話を受けて、私たちが求める共創型人材をどのように充実させようとしているのかについてお話ししたいと思います。こうした能力を持った人材を生み出すポイントは、「個の能力の強化」と「組織文化の醸成」にあると考えています。実現につながるさまざまな施策を、順次実践しているところです。
特に力を入れているのは組織文化の醸成です。文化を変えるには時間がかかるからです。私は、10年は必要だと考えています。経営陣がコミットして本気で取り組まなければ、文化は容易に変わるものではありません。
髙橋と私はグローバルも含む拠点を昨年だけで70カ所ほど訪れ、ラウンドテーブルを100回以上実施しました。ざっと1100人を超える従業員と直接会話したでしょうか。こうした場で、「なぜ今変化が必要なのか」「レゾナックはどこへ向かおうとしているのか」について経営側の本気を伝え、多くの従業員と対話しました。
今年改めて拠点を回りましたが、こうした取り組みを経てこの1年でかなり現場のマインドが変化してきていると感じます。パーパスやバリューに関する従業員サーベイにも、ポジティブな変化が見て取れます。
加えて今年から国内で行っている施策が「モヤモヤ会議」です。昨年のラウンドテーブルでは、主に経営層の思いを伝えること、髙橋の人柄を分かってもらうことに注力しました。ただ、「自由に意見を言って」と従業員に伝えても、髙橋のこれまでのキャリアやバックグラウンドから緊張してしまう。そこで私はあえて「髙橋さん、それ違うんじゃないですか」などと議論を持ち掛け、自由闊達に言い合える雰囲気づくりに努めました。髙橋の人柄が分かると、方針に耳を傾けてくれるようになることも実感しました。
そうやって人柄をさらけ出しながらレゾナックの文化の下地づくりをしてきたのですが、次の一手がモヤモヤ会議です。昨年、髙橋と私が行った文化醸成のムーブメントを、マネジャー層にも広げていくのが狙いです。
モヤモヤ会議では、若手4人とマネジャー1名のチームをつくり、普段もやもやしていながら言い出せずにいたことを持ち寄り、みんなで議論します。課題を「自分ごと化」して解決を試みることで、当社のバリュー実践の場になっています。また、自分たちの力では解決が困難なことは、「おねだり」として、会議に必ず同席する事業所長や拠点長といった決定権者に具体的な提案をします。そして、その場で意思決定をしてもらいます。
この施策で重要なのは、若手に「こんなこと言ってもいいんだ」と体感してもらうこと、さらにマネジメント層に迅速な意思決定やバリューの実践をしてもらうことです。
実施してみると、ささいなもやもやを通して、拠点ごとの本当の課題も浮き彫りになることが分かりました。来年はまた別の施策を考え中ですが、それぞれの活動を有機的につなげ、人的資本経営を高度化していきたいと考えています。
堀江 ここまで今井さんのお話を聞いていて思い至ったのは、われわれアビームコンサルティングが行っているチャレンジです。コンサルティングビジネスは、これまで課題解決型でビジネスを行ってきましたが、われわれは、これからはそれだけでは不十分であり、クライアントやさまざまなステークホルダーと共に価値づくりを行い、社会の持続的成長に貢献する「社会変革アクセラレーター」を目指していこうとしています。
今そこにある課題を解決するのはもとより、社会の価値を上げる、新たにつくり出すことを目指す。それを一つの企業の枠にとどまるのではなく、バリューチェーンのように複数の企業や業界がつながり合い、まさに共創していくイメージです。
そのためには、人的資本がビジネスの根幹にある当社の従業員一人一人が、より高いパフォーマンスを発揮しながらビジネス界のアスリート「Business Athlete」として、活躍し続ける必要があります。その取り組みの一つにウェルビーイングがあり、私はつい先ごろまで、その推進のリーダーをしていました。この活動で目指しているのは「知的に生き生きと働く」「挑戦することで成長し続ける」ことに加えて、「変化への適応とパフォーマンス向上に取り組む」ことです。ウェルビーイングの捉え方は、個人によって、組織によって多様であるからこそ、企業として取り組む上で、その狙いを明確にしていくことが重要だと考えています。
また、先ほどご紹介のあったモヤモヤ会議同様、これには若手育成の側面もあります。Z世代などの若い世代が、「自分たちも意見を出していいんだ」「やりたいと思ったことを実行していいんだ」と、社内ベンチャー的な気風が醸成されることに意味があります。これがやがてカルチャーとして根付き、世代を超えてチャレンジし続ける組織になる。それが共創の素地になっていくと期待して取り組んでいます。
ここでもやはり重要になるのは、経営側が本気のスタンスを貫き通すことであり、そのコミットメントが組織にワンチームの一体感をもたらす。これこそ共創の文化醸成には欠かせない要素だと自らの体験を踏まえて痛感し、今井さんのお話に強く共感しました。
いまや人的資本の充実はWANTではなくMUST
今井 今チームという言葉が出ましたが、私たちレゾナックは、チームでの経営にこだわっています。髙橋がこれだけ徹底的に人事改革にコミットできるのは、チームを意識した経営ができているからだといえます。
例えば短期・中期の事業をどう変えていくかについて、事業部長もCFOもCSOも、全員が方向性を共有した上で対応を議論し、実行に移していく体制ができています。だからこそ髙橋は信じて任せることができる。こうして権限委譲ができているため、髙橋は自らの時間のほとんどを従業員と顧客に使うことができています。
久保田 先ほど、初期は髙橋さんと今井さんが、従業員一人一人の個性に向き合い続けたというお話がありました。それは意味があってのことですが、人的資本経営を継続していくためには、従業員の意識改革に経営陣が動くのには限界があります。何か工夫はしていますか。
今井 もちろん役員が従業員全員と対面してコミュニケーションを取るわけにはいきません。鍵を握るのはマネジャーです。マネジャーの力量が、現場のチーム力に直結します。そのための施策の一つとして、1on1とネガティブフィードバックが苦手なマネジャーが多いことを受けて、人事が主導するトレーニングを進めています。
堀江 まさにCxOやマネジャー、中間層、そして現場に、どう血を通わせ共創の文化を全社に浸透させていくかという、地道な作業の積み重ねですね。
今井 私たちは共創に必要な要件を五つに分類し、それをカスタマイズした教育研修もマネジャーに受講してもらっています。それが終わったら今度はマネジャーが講師となって現場のメンバーに伝えていきます。
久保田 そうして共創文化を全社に行き渡らせるわけですね。レゾナックで共創といっているように、当社アビームコンサルティングでも共創や自律を重要視しています。
ただ、単語は同じでも、中身を精査すると定義には違いがあります。それこそが、企業固有のカルチャーということになるのだと思いますが、例えばウェルビーイングについて考えようとなったとき、その企業のカルチャーがあり、従業員がどれだけそれに共感しているか、また逆に会社側が、その共感している従業員にどれだけ時間を使っているかが問われます。
今井 その通りですね。ひと口にウェルビーイングと言っても、会社によって異なりますし、同じ会社でも一人一人思い描いているものは異なります。でも、その根底に流れているのは、「この会社で私は自分らしく生き生きできる」という帰属意識だと思います。それは、髙橋がよく口にする「これを楽しいと思ってくれる人が増えればいい」というひと言に凝縮されていると思います。それがあった上で自分のパーパスと会社のパーパスを重ね合わせ、響き合うところはどこなのか探っていく、ということになると思います。
久保田 私が今日改めて確認できた点は、経営陣が自社のカルチャーを楽しく話せない会社には、誰も付いてこないなということです。そこにレゾナックの人的資本経営の強さを見た気がします。
堀江 今後、企業が価値をさらに高めていく上で共創は必須であり、それを目指すために人的資本の高度化が土台になる中で、WANTかMUSTかという話が出ました。危機感や優先順位の面からすればMUSTかもしれませんが、そこにあるメンタリティーは悲愴感ではなく、「自ら進んでそうありたいと願い、ワクワクする」というものだということですね。
今井 はい、まさに「強い意志を持って集い、共にワクワクしながら実行する」そんな組織を目指しています。
久保田 おっしゃる通りですね。これからさらに人的資本に着目して共創型人材を強化していく中で、われわれも共創の一部として、ワクワクしながら関与していけたらと考えています。
今井 私たちには、志があり到達したいところも明確です。そして、そのためのさまざまな施策も打っています。ただ、継続していく中で、多様なステークホルダーの皆さまに、より深く理解していただく必要があります。そのためには、理解を得られる取り組みになっているか、ちゃんと芯を捉えた施策になっているか、分かりやすく進捗を表現できているかなどといった点をクリアする必要がありますが、それは組織内部の力だけでは足りません。
アビームコンサルティングは、そうしたプロセスにおいて考え方のアウトラインとなるフレームワークの提示などを経て、思考の過程に寄り添う「壁打ち」の相手になり、一緒につくり上げていただいたという感覚があり感謝していますし、これも共創の一つだと考えています。
久保田 最後に、思いを同じくする企業のリーダーにアドバイスをお願いします。
今井 経済産業省の方がおっしゃっていたのですが、人的資本にフォーカスした変革がうまくいかない例として、「CEOが本気でも人事が付いてきていない」「人事はやりたくてもCEOが本気になっていない」という状況があります。人的資本経営に取り組むには、この両立が大切です。その上で、全社を巻き込んでワクワクしながらチームで変革をやり切ることが大切なのだと思います。
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