全国5600以上の医療施設が参加する「National Clinical Database(NCD)」の開発を主導し、医療現場に劇的な変化をもたらすなど、データサイエンスを駆使した社会変革に挑戦し続ける慶應義塾大学教授の宮田裕章氏は今、新たな大学の創設に挑んでいる。一方、アビームコンサルティングの西岡千尋氏が現在注力しているのが、多くの企業が利用できるAI(人工知能)プラットフォームの開発とそれを軸とした企業や社会の変革実現だ。「共創」というキーワードでつながる大きなプロジェクトに取り組む2人が、データ活用の本質的な意義について語り合った。
AIで分析する前に「問いを立てる」
西岡 日本の企業も社会もデータドリブンの方向へと進みつつありますが、まだまだ十分とはいえません。私は、データ活用の本質的な意義が広く理解されないと、データ駆動型社会への変革は難しいと考えています。
例えば、AIにデータを読み込ませれば自動的に分析して、適切な答えを出してくれるというイメージを持っている人がまだ大勢います。
しかし、企業の場合でいえば、事業の目的や目標は何か、それを成し遂げるために何を実行すべきかという戦略デザインが先に必要です。その上でどんなデータを集めてAIでどう分析するのか、それをビジネスに実装するためにデータやテクノロジーの基盤をどう構築するかという一貫性のある取り組みがなくては、データから価値を生み出すことはできません。
宮田 よく分かります。私は科学を使って社会を良くするための研究やプロジェクトを一貫して手掛けてきました。そのためにAIやデータをよく使ってきたので、データサイエンティストの先駆けと見られていますが、西岡さんがおっしゃるようにデータを分析するだけでは何も完結しません。