残しながら、蘇らせながら、創っていく 社会課題と向き合い続けて街は進化する

不動産デベロッパーから共創を生み出すプラットフォーマーへ
残しながら、蘇らせながら、創っていく 社会課題と向き合い続けて街は進化する鈴木眞吾 氏
三井不動産 取締役 常務執行役員 ビルディング本部長

1987年に三井不動産入社以来、大規模複合再開発事業に従事。代表的なプロジェクトに「日本橋室町三井タワー」「東京ミッドタウン八重洲」(2022年竣工)などがある他、40年の完成を目指す首都高速道路日本橋区間地下化事業の周辺エリアで、4件の再開発事業を手掛けている。21年常務執行役員ビルディング本部長に就任。23年より取締役常務執行役員ビルディング本部長に(現在)。

鈴木 私は数十年にわたり、都心の大規模複合再開発事業を担当してきました。最近の事例で申しますと、三井不動産も入居している東京・日本橋の「日本橋室町三井タワー」、東京駅直結の大規模複合施設である「東京ミッドタウン八重洲」などがあります。また、日本橋が架かる日本橋川の上空を覆う首都高速道路の地下化事業が2040年の完成を目指して進行中です。その周辺エリアの再開発プロジェクト5件のうち4件を当社が手掛けており、私も関与しています。

小山 どれも都心の非常に大規模な街づくりの案件ですが、実現に当たっては、さまざまな社会課題の解決につながるものとして、多くの期待が寄せられているのではないでしょうか。貴社が掲げる長期経営方針「VISION 2025」と実際のこうしたプロジェクトは、どのように関連しているのでしょうか。

鈴木 三井不動産の経営ビジョンの一つに「&」マークの理念というものがあります。これは創立50周年の91年に制定された当社のロゴマークに込められた考え方です。「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念の下、社会・経済の発展と地球環境の保全に貢献していくというものです。都市の再開発でいえば、開発と環境保全、伝統と革新といった、従来は相反すると見られてきた概念を「&」によって共生させる。あるいは、そこにある多様な価値観を連携させていくということになります。この考え方は、「VISION 2025」にも明確にうたわれています。

 こうした理念は、先ほども触れた日本橋の街づくりに表れています。このプロジェクトでは、「残しながら、蘇らせながら、創っていく」をコンセプトに、90年代後半から官民、そして地域一体で街づくりに取り組んでいます。具体的には「界隈創生」「産業創造」「地域共生」「水都再生」という四つをテーマに掲げ、これらに基づくソフトとハードが融合した街づくりを目指しています。

歴史や文化の先にある街のあるべき姿の実現

小山 日本橋の街づくりでは、すでに多くのプロジェクトが動いているようですが、ご自身が関わっておられる中で、今ご紹介いただいた四つのテーマが見て取れる成果をご紹介いただけますか。

残しながら、蘇らせながら、創っていく 社会課題と向き合い続けて街は進化する小山 元 氏
アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル 金融ビジネスユニット

外資系コンサルティングファームでの日本、米国勤務を経て、アビームコンサルテその他幅広い業界の戦略策定から商品企画、業務改革、システム開発などのコンサルティング業務に従事。専門領域はカード・決済および金融・決済業界の技術革新。また、FinTechの業種・業界を横断した企業間の共創とビジネス開発の支援を推進するイニシアチブ、および社内イノベーション創出プログラムをリードしている。

鈴木 日本橋はもともと「薬の町」だったという歴史的背景があり、今も製薬系の企業が多いエリアです。その成り立ちを踏まえ、ライフサイエンスのイノベーション推進に取り組んでいるのはその一例といえるでしょう。またライフサイエンスの取り組みからつながる分野、宇宙をテーマに新たな産業創造を目指すエリアでもあります。当社が音頭を取って設立した一般社団法人「クロスユー」では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携協定を締結し、産官学のさまざまな企業やベンチャーに参画いただいています。関連施設が日本橋エリアに集積し始めており、将来は日本橋を宇宙ビジネスの聖地にするという志で取り組んでいます。

 また「地域共生」の面でもご紹介できる成果があります。日本橋室町には、貞観年間(859〜76年)から 1100年以上の歴史を有する由緒正しい福徳神社という社があるのですが、長い間、ビルの屋上に遷座されていました。これを14年に現在の場所に再建し、新たに「福徳の森」という緑のある広場も整備しました。ビルを単に新築するのではなく、「残しながら、蘇らせながら、創っていく」という「&」マークの理念にもかなう地域コミュニティの核として憩いの場となっています。

小山 私たちコンサルタントも、不確実性の高まる状況の中での企業価値を考える時、最新の足元の動向だけでなく、数十年、数百年という長い時間軸の中でその企業の歴史や大切にしている価値観が持つ重要性に着目することが増えています。それがその企業のユニークネスにつながるからです。

 一方で、提供すべき価値は何かを考えると、最終的には未来の社会課題、そして将来の生活者にとっての価値を追求することに結び付くのではないでしょうか。私たちはこれらの交点にさらなる可能性があるのではないか、と考えています。

 当社が支援している企業にも、そういった意識でイノベーションに取り組む企業があります。私が支援を担当している電鉄会社もその一つです。人口減少時代の現在、これまでのように線路を敷いて商業施設や住宅を開発すればビジネスが広がるという考え方からシフトし、高齢化や人口減少などの明確な社会課題に対して、どのような価値で課題解決につなげられるかに挑んでいます。

鈴木 小山さんのおっしゃるような意識が広がれば、街の規模の大小にかかわらず、その土地の歴史や文化を踏まえた上で、その街があるべき姿を模索する開発の在り方が成立します。理想論といわれるかもしれませんが、やはり街づくりには、街の方々との対話を通じて最初に「あるべき姿」を見定め、それを目指して取り組みを継続していく姿勢が大事だと私も強く感じます。

 古くからその土地が持つ個性を生かしながら、社会課題を受け止め解決の可能性を模索する街づくり。これが、やがて東京の街の国際競争力強化につながっていく。そこにわれわれが貢献していけたら、という思いでさまざまな取り組みを進めているところです。

DXとGXを連携させ人々の住む・働く街を更新

小山 現代における街づくり、特に都市の再開発においては、「DX(デジタルトランスフォーメーション)とGX(グリーントランスフォーメーション=持続可能な成長戦略)というテーマにどのように取り組んでいくか」が、重要かつ喫緊の課題といわれています。このテーマについて、どのような見解をお持ちですか。

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