鈴木 例えば東京のオフィスビルを見ても、実に多彩な開発が行われており、その中で競争力を確立していくためには、やはりデカップリングの思考が必要であり、その実現の鍵を握るのがDXでありGXであると認識しています。
再開発でいえば、何もない状態にして新しく街をつくるのではなく、今までの歴史の重なりを踏まえた上で、人が暮らし働いている場所をアップデートするには、デジタルテクノロジーで開発(DX)することばかりにとらわれず、GXとの密接な連携を意識する必要があります。
小山 「デジタルは手段であり目的ではない」とはよく言われる言葉ですが、ご指摘はまさに重要な点だと考えます。「最新技術の粋を集めたビルです。さあ、入居してください」というのではなく、そこに暮らす人たち、働く人たちが、どんな環境や状態が幸せで快適なのかをまず読み解き、それを持続するためにデジタルを活用し、GX、すなわち持続可能性のある成長戦略を描く。私もそうした街づくりに大いに共感を覚えます。
もともと地域の歴史や人を重視する日本の文化は、海外からも非常に注目されていますが、今のお話で、それが最新の街づくりにも色濃く表れていると実感しました。
鈴木 「VISION 2025」で当社は、テクノロジーを活用して不動産業そのものをイノベーションすることをビジョンの一つとして掲げ、「リアルエステート・アズ・ア・サービス(RaaS)」という視点で取り組んでいます。その意味するところは、不動産を単なる箱物の提供ではなく、当社にしかできないサービスとして訴求していこうというものです。その街に住む人、働く人のニーズを的確に捉え、多様なライフスタイルを支えるサービスを提案していく。デジタルはそれを実現するツールであり、その有効な活用を重要な課題として、これからも取り組んでいくことになると思います。
その際、重要なポイントとなるのは、まず生活者の目線に立って物事を考える「顧客視点」。そしてもう一つは、「リアルの価値の大切さを認識すること」です。我々はコロナ禍を経て、対面の会話や同僚とのコミュニケーションなど、リモートワークでは代替できない価値に気付くことができました。このリアルとデジタルの最適な組み合わせを自ら考え実践することで、リアルの価値を究極まで高めることができます。これも、三井不動産の使命だと改めて認識しています。
顧客視点とリアル/デジタル連携が街と人に価値を生み出す
小山 三井不動産の目指す「デジタルを活用した街づくりの未来像」が具体的に感じられる施策をご紹介いただけますか。
鈴木 当社の事業の大きな柱の一つに商業施設がありますが、この領域では現在「Mitsui Shopping Park &mall(アンドモール)」という名称で、リアル店舗とEC(電子商取引)モールのオムニチャネル化を積極的に進めています。
また当社は、千葉県柏市で「柏の葉スマートシティ」という大規模な街づくりプロジェクトに関与しており、ここでは住民のパーソナルデータを安全に利用するための「柏の葉データプラットフォーム」を構築しています。これは住民のパーソナルデータを、ご本人が同意した範囲内で企業や団体・研究機関などが活用できるという試みです。
将来的には職場や住居などさまざまな場所に合った、さまざまなサービスにつなげられたらと考えています。
街づくり以外にも、「&well(アンドウェル)」という企業向けの健康経営支援サービスも展開しています。これはスマートフォンのアプリを介した健康データ提供サービスですが、利用するユーザー企業に呼びかけ、ウオーキング大会などのイベントをリアル/デジタルの融合によって実施し、健康増進を支援しようという試みも進めています。
デジタルの優れた点は生かしながら、「ショッピング客」「住む人」「働く人」それぞれの視点からリアルの感動や価値体験を街づくりに取り込み、我々が提供するサービスを利用する方々に対して、デジタルを活用しながら「手触り感」のある体験を提供できたらと思います。
小山 ビルや施設を造って提供するだけでなく、そこにいる「人」それぞれを思い、そこで起きる出来事、すなわちイベントや時間、空間、そして体験までを自ら企画して提供する姿は、不動産業の枠を超えてプレーヤーの側にまで越境していく挑戦といえますね。そのためにデジタルを活用し、より一歩先に行くというアプローチは、今後、企業がデジタル活用を考える上で、大いに学ぶべきだと感じます。
「新産業の創造」と「持続可能な社会の実現」を
小山 今後、街づくりのみにとどまらず、将来に向けてビジネスの場、暮らしの場をどのようにクリエートされるのでしょうか。三井不動産としての展望をお聞かせください。
鈴木 まず冒頭でも触れたように、「&」マークの理念の下で、多様な価値観の連携や共生を図っていくという軸は変わりませんが、一方ですべての事業活動は、ESG(環境、社会、ガバナンス)の視点が欠かせません。その上で、企業として継続的な成長を求められるわけです。この一見して相反するテーマを「&」マークの理念によって昇華・融合していく。この両立ができるよう、これからもまい進していきたいと思っています。
この実現のために我々は、「新産業の創造」と「持続可能な社会の実現」を目標に掲げています。前者は先にも触れたように、イノベーションを通じた新産業の創造であり、街づくりを通じた超スマート社会の実現です。これによって地域の産業創生や活性化を促し、三井不動産の街づくりを選んでいただくことで、当社の継続的な優位性維持にもつながります。
後者の「持続可能な社会の実現」については、すでに広くいわれていることではありますが、「街づくりにおける環境負荷の低減とエネルギーの創出」として、当社の取り組みの一つになっています。実は、三井不動産の入居するビルの地下には大規模なエネルギーセンターがあり、コージェネレーションシステムで発電した電気およびそれに伴う廃熱を、ビル内はもちろん周辺街区へも供給しています。今後も持続可能な社会実現のお手伝いをしていきたいと願っています。
街づくりによる産業創出プラットフォーマーを目指す
小山 最後に、今後三井不動産はプラットフォーマーになると発信されていますが、真意を伺えますか。
鈴木 従来の不動産デベロッパーの枠を超えて、街づくりを通じた産業デベロッパーとして、プラットフォーマーの役割を果たしていきたいと考えています。
産業創造などの機会創出に積極的に関わり、場や機会を提供するとともに、イノベーションの種を獲得し、新たなビジネスの創出、需要を創造する企業になっていきたいという思いが込められています。そのための具体的なテーマをいくつも思い描きながら、これからも街づくりに日々取り組んでいきたいと思います。
小山 今日お話を伺って、三井不動産という企業が従来の不動産開発の枠組みを飛び越え、街というエリアにライフサイエンスや宇宙ビジネス、ヘルスケアなどといったさまざまなコンテンツやプレーヤーを呼び込み、共創を生み出す基盤になりつつあるイメージがはっきりと認識できました。
翻って、我々コンサルティングファームが企業のお手伝いをするにおいても、これまでのような確実性の高い事業環境下での競合他社に対する勝ち筋の提示にとどまらず、個性を持ち寄って、変化に強い柔軟な組み合わせで新しい価値を共創していく、挑戦の伴走者であるべきだという認識を新たにしました。
三井不動産のように、すでに共創の基盤にコンテンツやプレーヤーを呼び込んで新しい価値を生み出そうとしている企業に対して、我々はより高い社会価値を実現する共創関係をコーディネートする役割、そしてその共創活動が向かうべき未来をデザインする役割を果たしたいと考えます。
かつてないほど多様な社会課題を抱え、事業環境の変化の振れ幅が極めて大きいいま、企業はより開かれた環境で共創関係を模索すべきであり、我々は、創造性と未来への洞察を持って、その変革をリードすべきであると強く感じる時間となりました。貴重なお話をありがとうございました。
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