牧島 One-ID化というのは、いわゆるOMO(オンライン/オフライン統合)の一環です。ブランドのお客さまを一つのIDにひも付けてお客さまへの理解を深め、ご要望などをパーソナライズすることで最適なコミュニケーションを可能にするもので、ブランドへの信頼感や認知向上につながると考えています。ただ、このデジタルを活用したOMOについて、取り組みの初期には社内からさまざまな声がありました。
そんな中でもOne-IDを核とするOMO施策を自信を持って提唱していったのは、これが既存のオフライン領域にもメリットとなるものであり、「コスメデコルテ」ブランド全体に新しい成長をもたらすとの確信があったからです。
時代の変化とともに、お客さまの購買行動や嗜好も多様化しており、世の中はオンラインでもビジネスを行う方向へ進んでいます。そこには数多くの競合もいますが、従来のリアルチャネルでは出会えなかった潜在的顧客層が多いのも事実です。これまでリアル店舗でつながりのあるお客さまはもとより、新たなお客さまとの接点をも創出し、双方に高い顧客体験を提供できる。そこにリーチするためのデジタル活用施策がOne-ID化というわけです。
同時に、オンラインというのはあくまで商品を買う手段の一つにすぎません。目指すべきは、より広い範囲でのデジタル活用、たとえばSNSや口コミサイトを駆使して、ブランドの価値や魅力を新規層も含めたお客さまに訴求していくことです。オンラインから入ってきたお客さまが、オフラインならではの良さを体験すれば、相乗効果が得られると考えています。
水野 デジタルネイティブの企業ではなく、これまでリアルな接点を大切にしてきた企業が、デジタル活用で顧客体験向上に取り組むには、一定のハードルが伴います。論点の一つに、「既存のチャネルやステークホルダーの変革への理解」というものがあります。
その意味から、事業戦略と整合する形でグランドアップでデザインを描き、丁寧に社内外の理解を得ながらデジタルを活用して、潜在顧客を含むより多くの生活者にブランドの価値を届けている貴社の施策は、極めて意義深いと感じます。
牧島 オンライン/オフラインの境界線に関係なくお客さまとの接点を拡大することは、ブランドのさらなるファンづくりにつながり、その成果は必ずリアルの販売の現場にも還元されることを、繰り返し丁寧に説明してきました。そこに耳を傾けてくださる方が次第に増え、多くの方々の理解と協力をいただけたことに深く感謝しています。
OMOの効果に高まる期待が 業務の現場にも増加中
水野 One-ID化をはじめ、貴社のOMOの取り組みの過程で、ポイントとなる点はありますか。
牧島 One-ID化の推進は社内だけでなく、販売店の皆さまにもご協力いただかないとうまくいかない点が多々あります。
しかし近年は、お客さまのデータを共有化するOMOのメリットを理解される方が着実に増えてきている印象があります。
データ活用は流通様単独では限界があり、One-IDによるお客さまへの情報発信など、ブランド側でもできることを進め、両者が共創することで、ブランド認知向上を出発点とする顧客体験向上につながるシナジーも生まれてきます。
そうした共通の理解が、流通領域のステークホルダーにも広がっていると実感しますし、今後OMOを推進する上で、大きな力になると期待しています。
水野 One-ID化の大きなメリットとして、顧客像の解像度がデータによって高まる点が挙げられます。一つのIDの下、購買履歴以外にもさまざまな行動データが付加され、個々の顧客に最適化された新しい提案ができるようになります。しかも、それは購買時に限定した情報発信だけでなく、生活者としての顧客にまったく新しい体験を提供し、ブランドロイヤルティ向上につながっていくと予想できます。
「コスメデコルテ」の顧客に即して言えば、これまで店頭で提供していたカウンセリングなどのサービスに加えて、デジタルならではの新しい接客やデータを活用した提案ができるようになるでしょう。そこに、接客の機微を熟知したBCや流通担当者のナレッジやノウハウを応用することで、真のOMOといえる価値が生まれてくるのではないでしょうか。
「コスメデコルテ」のOMOを推進されていく上で、具体的なビジョンや課題があれば教えていただけますか。
牧島 化粧品というのは、消費財であると同時に嗜好品の側面も持っているため、買い方によって価値が変わる商品です。
つまり、今後OMOを推進していく中で、オン/オフそれぞれの良いところをうまく融合できれば、ブランドそのものの価値をさらに大きく向上させられる可能性があるのです。単に「オン/オフどちらで買うか」ではなく、両方の「いいとこ取り」を目指していくのが、化粧品のOMOにおける重要な成功ポイントといえます。その時、売り手である我々もオン/オフの別にこだわらず、最もお客さまにとって良い購入体験につながる選択ができるようにしなくてはなりません。将来的には、新しいオフラインの在り方も模索できると思っています。
そうした多彩な試みを通じて、ブランドに対するお客さまのロイヤルティが向上し、「こういう提案をしてくれるブランドだから私が使う価値がある」と感じていただくことに、今後は注力していきたいと考えています。
水野 そうしたリアルとデジタルが融合した顧客体験やブランドロイヤルティ向上に、今後も伴走できればと考えています。私たちアビームコンサルティングは、「多様なデジタルテクノロジーの提案」「高度なデータ活用」に加え、今回の取り組みのような構想から実現までの「プログラムマネジメント」に強みがあり、数多くの企業をご支援してきた知見があります。
特にOMOの領域では、チャネルも施策も多岐にわたるため、社内外の関係者を的確に巻き込み計画的に推進していく必要があります。その点でもプロジェクト推進で力を発揮できればと考えています。
牧島 アビームコンサルティングとはすでに1年くらい一緒に仕事をしてきましたが、当社が持ち合わせていないものを提示してくださると感じています。我々化粧品メーカーは、オフラインの確立されたフレームの中で長くビジネスを行ってきました。そのため、デジタルを活用した変革のノウハウは不足しており、デジタルと化粧品を融合させるとどうなるかも予測できません。それを乗り越える助言やサポートを多くいただきましたし、今後のOMO推進についても引き続き力をお借りしたいと思っています。
ジャパンラグジュアリーを世界へさらなるデジタル活用を
水野 最後に、今後の「コスメデコルテ」のブランド展開に向けた抱負をお願いします。
牧島 コロナ禍による移動制限が緩和され、22年末あたりから改めて日本国内や欧米、中国などを見て回った結果、18年から進めてきた新しいマーケティング施策が、特に日本において確実に成果を上げつつあると確信しました。「コスメデコルテ」のデジタル化、オンライン化も、着実に良い方向に進んでいると感じます。
最終的には、国内外のハイプレステージブランドが居並ぶ中でブランドの価値を高めて競争を勝ち抜いていきたい。そのために、我々が「ジャパンラグジュアリー」と位置付けている「コスメデコルテ」の世界観を、デジタルの力も借りながらどう高められるのかを見極めたいと思います。
その第一歩として、今回リニューアルしたAQをお客さまに本当に認めていただける商品に育てていくことが、当面の大きなテーマになります。
同時に、現在進めているOMOを基本とした顧客体験向上が成果を発揮すれば、オンライン/オフラインの隔てなく、お客さまにより高いロイヤルティを感じていただけるブランドに成長すると信じています。これを、この先10年間の課題として取り組んでいきたいと思います。
水野 デジタルの力をフルに活用したCX高度化によって「ジャパンラグジュアリー」を推進していくという姿勢とこれまでの成果は、日本発のグローバルブランドを模索する多くの日本企業にとって、大きな示唆になります。
「コスメデコルテ」は、欧州の品格も取り入れた独自の世界観と、それを支える日本ならではの高品質が融合した唯一無二のブランドと認識しています。今後も「コスメデコルテ」のさらなる成長のお手伝いをさせていただきたいと願っています。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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