美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。
フェルメール最高傑作。まさかの「1万円」ぽっちだった?
──見れば見るほどほんとすごいですね…。なんかオーラが違いますもん! ちなみにこの作品、今もし売買されるならおいくらくらいになるんでしょうね?
どうでしょうね…。100億円とか150億円とか言われることもありますが、私は正直もっといくと思いますよ。500億円とか? もう天文学的な数字ですね。
──すごいなぁ。ずっと価値も変わらず愛され続けるって…。
それがね、実はそうでもないんですよ。
──どういうことですか?
実はこの作品、1881年にハーグのオークションに出品されているんですが、そのときに落札された金額は2ギルダー30セント。
今の日本円にして約1万円くらいだったと言われているんです。
──え!! こ…この絵が1万円!? なんでですか!?
まあ、フェルメールの絵は彼の死後に散逸してしまって、フェルメール自体が忘れ去られた画家になっていたんで、今のような「フェルメールブランド」は全くなかったわけです。
そして何より、当時この作品は長い歴史の中でひどく汚れていて、正当な評価を得られなかったんですよね。
──へ~。フェルメールの人生と同じようにドラマチックな絵なんですね。で、今見ている絵は、その汚れを全て落としたものなんですか?
はい! 今から30年ほど前に大掛かりな修復があって、表面を覆っていたニスや、フェルメールの後の人が上描きしたところを取り除いたんです。
──え! この名画の上に誰かが描き足したりしているんですか? けしからんやっちゃ!
はは、まあその当時はオリジナルの重要性とかっていうのは考えていなかったでしょうからね。仕方のないことですよ。
ただ、その修復のおかげで、いろいろわかったことがあるんです。
──わかったこと? どんなことですか?
まず、黄ばんだニスの下に隠れていた少女の顔にはピンクや黄色の絵具が使用され、想像していた以上に繊細に、生き生きと描かれていたんです。
また、これが面白いんですが、私たちから見て下唇の右端、一粒の白い点がありますよね?
──はい、この白い点でとっても唇がつややかに見えます。この点の威力すごいですね!
実はこの白い点はフェルメールの死後、ただのシミだとみなされて、肌色に塗られていたんだそうです!
──えぇ~! 台無し! いや、わかるやろ(笑)。
わかんなかったんですって(笑)。
結局、この点はシミではなく、フェルメールお得意の光の描写だと結論づけられて、復活したということです!
──なんとまぁ…。当たり前だと思って見ている絵にも、いろんな物語があるんですねぇ。
(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)