「つい他人が求めている答えを言おうとしてしまう…」「正解にとらわれて柔軟な発想ができない…」──そんなモヤモヤを抱えている人にぜひオススメしたいのが『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』という本です。
著者の末永幸歩さんは、テレビ番組「セブンルール」でも取り上げられるなど、各種メディアからも熱い注目を集めている美術教師。現在は、全国の小中高生だけでなく、大学生やビジネスパーソンにも向けた「アートの授業」で大人気となっています。
「ものの見方が変わった!」という反響がとまらない「美術の授業」とは、いったいどんなものなのか?『13歳からのアート思考』からの引用も交えながら、末永先生に語っていただきました。

【美術教師が教える】つい「他人が期待する答え」を言いがちな人におすすめのアート作品「第1位」は?Photo: Adobe Stock

「なにがアートか」を決める基準とは?

「私たちがアートだと思っていないところに、アートそのものが転がっているのかもしれない」

 中高生向けの「美術」の授業で、とある絵画作品を見てもらったところ、こんな素敵な感想を書いてきた生徒がいました。

 たしかに、ほんのちょっと見方を変えれば、私たちが「これはアートではない」と思っているもののなかにだって、アートは隠れているのかもしれません。

 しかし、そうなのだとすると、「なにがアートであり、なにがアートでないのか」を決める基準はどこにあるのでしょう?

 美術館に展示されていれば、それは即座にアート作品の資格を得るのでしょうか?

「アートとはこういうものだ」といえるような枠組みは、そもそも存在するのでしょうか?

やってみよう!
「アートの仕分け」エクササイズ

 そういうことを考えてもらうために、私の「美術」の授業では「アートの仕分け」というエクササイズをやっていただくことがあります。

【エクササイズ】アートの仕分け

これから示す4つのものを「アートである/アートでない」のどちらかに仕分けしてみてください。
それが終わったら「なぜそのように分けたのか」の理由も教えてください。


(1)[彫刻]《ピエタ》(ミケランジェロ)
(2)[絵画]《モナ・リザ》(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
(3)[建築]ノートルダム大聖堂(パリ)
(4)[大衆商品]カップヌードル(日清)

 さて、みなさんはどれを「アートである」と考えたのでしょうか?

 生徒たちの意見もご紹介しましょう。

(1)(2)(3)がアート。アートかどうかは『コピーできるかどうか』で決まると思う。これらはハンドメイドなので、完璧にコピーすることは不可能。版画作品など、コピーできるアート作品もあるけれど、その場合でも、作者の直筆で刷り数やサインが加えられたりするはず。一方、(4)はデータ化されたデザインなので、まったく同じものを大量生産することができる」
(1)(2)がアート。どれにもアートの要素は少なからずあると思うけれど、アートの度合いが違うと思う。僕は、『実用性』など芸術以外の目的よりも、『芸術』としての目的のほうが高いものは、アートといえると考えた。(1)(2)は、『芸術』として鑑賞される以外の用途がまったくないので、純粋なアートだと思う。(3)は建築物としての『実用性』が含まれているので微妙なところかなと思った。(4)は完全に『実用性』が勝っている。『どうすれば消費者が手に取るか』『麺を入れる容器の形状・素材はどのようなものがいいか』などを考えてデザインされているので、『芸術』としての度合いが低いように思う」

 なかなか説得的な理由ばかりですね。なお、「アート」と「そうでないもの」の境界線は、「(3)と(4)のあいだ」に引けそうだという意見が多かったようです。「カップヌードルはさすがにアート作品とは呼べないだろう」という声が目立っていました。

「枠組みを壊してくれる作品」に触れる

 このワークを受けてもらったあと、生徒のみなさんには1つのアート作品をじっくり鑑賞してもらいました。

 20世紀の最も有名なアーティストの一人、アンディ・ウォーホルによる《ブリロ・ボックス》です。

 このアート作品は「アート」と「そうでないもの」という枠組みを崩壊させるようなパワーを持っています。

 ご存じの方も多いと思いますので、どんな作品なのかについては割愛しますが、なんとも不思議な作品ですよね(気になる人はぜひ検索してみてください)。

 当時、世界中の人々を唖然とさせたこのアート作品の背景については、『13歳からのアート思考』のなかでも詳しく取り上げておきました。

本当に求められているのは
「その人らしい発想」

 今回はこの作品を見る前後で、生徒の「ものの見方」がどんなふうに変化したかをご紹介することにしましょう。

【質問】授業の最初に「アートの仕分け」をしたとき、あなたはアートとはどのようなものであると思っていましたか?

「『モナ・リザ』『ピエタ』『ノートルダム大聖堂』をアート、『カップヌードル』をアートでないと仕分けしていた。無意識のうちに、『絵』や『彫刻』がアートっぽいものだと考えていたのだと思う」

【質問】授業を終えて、いまのあなたは「アートってなんだ?」という問いについて、どう考えますか?

「ウォーホルの《ブリロ・ボックス》を知ってから、アートとアートでないとされているものには、見た目の違いはまったくないと考えた。だとすれば、アートかどうかは、見た目ではなく、内容によって決まるものだと思う」
「アートとは作品形態のことではないと気がついた。今後の美術で求められるのは『その人らしい発想』だ。アートによって自分の考えやアイデアを共有することができる。僕が思う『アートではないもの』は『自分なりの視点』が込められていないものだ」
「授業を終えたいまでも、『カップヌードル』をアートに入れるかといわれたら、やっぱり入れないと思います。でも、その理由が変わりました。最初は『商品だから』とか『200円ぐらいで安いから』という理由だけでアートでないと考えていました。いまは、もし『カップヌードル』をアートに選ぶべき自分なりの理由が見つかれば、選んでもいいかなと考えています」

思考のクセになっている「正解探し」をやめてみる

 いかがでしょうか?

 生徒たちからは、すばらしい「自分なりの答え」がたくさん出てきていました。

 ちょっとした工夫や習慣を取り入れれば、誰でもこんなふうに「自分なりのものの見方」ができるようになります。

 逆に、たった1つのアート作品を見たときすら、つい美術史の解説のなかに「正解」を探してしまう人は、日々の生活のなかでもいろいろと窮屈な思いをすることが多いのではないでしょうか。

「自分なりの意見が言えるようになりたい」──そう感じている人は、ぜひアート作品を通じて「自分だけの答え」を生み出す力を磨いてみることをオススメします!

(本記事は『13歳からのアート思考』をもとに再構成されました。同書では、これ以外にもたくさんのアート作品やエクササイズを多数ご紹介しています)

著者紹介:末永幸歩(すえなが・ゆきほ)

美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト

【美術教師が教える】つい「他人が期待する答え」を言いがちな人におすすめのアート作品「第1位」は?

東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を展開。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップや、出張授業・研修・講演など、大人に向けたアートの授業も行っている。初の著書『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)が17万部超のベストセラーに。オンラインで受講できるUdemy講座「大人こそ受けたい『アート思考』の授業──瀬戸内海に浮かぶアートの島・直島で3つの力を磨く」を開講。