芸術作品と聞くと、オークションで落札される作品や美術館の展示など、高尚なイメージを抱いている人も多いだろう。しかし、駅前の広場や公園、通りなどに置かれたブロンズ彫刻や駅構内に描かれた大きな絵画もまた、パブリックアートと呼ばれる芸術作品だ。パブリックアートを知れば、見慣れた景色が美術館に変わるかもしれない。そんなパブリックアートの魅力を美術ライターの浦島茂世が紹介する。本稿は浦島茂世『パブリックアート入門』(イースト・プレス)の内容を一部抜粋・編集したものです。
駅前の広場、公園……
もっとも身近な芸術作品
「パブリックアート」という言葉を聞いたとき、みなさんはどのようなものをイメージするだろうか?駅前にあるブロンズ彫刻を思い浮かべる人もいるだろうし、このごろの現代美術アーティストによる立体オブジェや壁画を連想する人もいるだろう。そもそもアートという単語が入ると途端に難しく感じてしまうという人もいるはず。人によってイメージが異なり、そしてあんまりよくわからない言葉、それがパブリックアートだ。そして、このパブリックアートの定義は現在までとてもあいまいだ。
パブリックアートとは、直訳すれば「公共(空間)の芸術」。駅前の広場や公園、通りなど、個人に属することがない公共空間にある芸術作品のことを指す。そのため、パブリックアートを公的機関や組織が経費を負担した芸術作品のみと定義する人もいる。本稿で扱うパブリックアートは、もう少し範囲を広げて公共空間にある芸術作品に加えて、筆者が芸術作品として扱いたいと感じている壁画や立体作品などを含めている。そのため、駅前にある彫刻から、ビルに描かれた壁画までかなり幅広い内容となっている。
筆者は美術ライターとして、日常的に美術館やギャラリーを訪れ、執筆活動を行っている。その傍らで、路上観察や地形巡りも趣味にしている。そのような日々を過ごしていると、美術を愛する人々にとっても、路上観察を愛する人々にも、パブリックアートと呼ばれる作品、特に年代を経た作品が、あまり興味を持ってもらえていない状況に何度も遭遇し、そのたびにとても切なく、忸怩たる思いを抱いていた。駅から美術館までにたくさんパブリックアートがあるのに素通りされ、マンホールや看板の横にパブリックアートがあるのに無視されてしまう。とてももったいないことだ。
じつは、どれも同じようにみえるパブリックアートには、時代ごとの「流行りすたり」がある。戦後、駅前に女性(裸婦なことも多い)や子どものブロンズ像が設置され、1970年代には街のメインストリートにたくさんの彫刻像が設置された。2000年代以降は東京を中心にオフィスビルの敷地内に現代美術作品が設置されるようになり、いまも続々と増殖中だ。このようなちょっとしたトリビアを知っただけでも、「では、自宅の最寄り駅前にある、あの像は、いつごろ作られたものなのだろう?」と興味が湧いてこないだろうか?さらには「そもそも、この作品は、なぜこの場所に置かれるようになったのだろうか?」と、トリックアートそのものや歴史を知りたくなってもこないだろうか?